マツダ技報 2021 No.38
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(3) ρambは雰囲気場の密度[kg/m3],ρlは噴射液体の密度[kg/m3],Dnはインジェクターの噴孔直径[m],Vtipは噴霧先端速度[m/s],σlは液体の表面張力[N/m]である。Inj. Cにおける噴霧の分裂長さとジェット数との関係を,Fig. 3に示す。なお次元を一致させるため,縦軸には,分裂長さを噴孔直径で無次元化した,無次元分裂長さを記載している。液体種,及び雰囲気条件が同一であれば,無次元分裂長さはジェット数の対数に線形依存する傾向がある。この結果から,適用可能範囲は限定的であるものの,ジェット数は,液体の分裂過程に寄与する代表的な物理量の関数であることがわかる。一方で,同程度のジェット数であっても,Case 1及びCase 2環境下のS5R噴霧の無次元分裂長さを比較すると,Case 1よりも高温かつ高密度であるCase 2条件の方が短い。更には,水噴霧とS5R噴霧とでは,S5R噴霧の無次元分裂長さが短い傾向にある。この結果からは,噴霧の分裂長さには,ジェット数にて考慮している物理量以外に,依存性をもつ物理量が存在することを示唆している。以上のことから,ジェット数に加えて,液体の分裂過程に関与する主要な物理量を代表する無次元量を組み合わせることで,多様な噴霧の分裂長さを包括的に表現可能ではないかと考えた。―158―⎞⎠⎟⎛⎝⎜⎞⎟⎠2ρDVlntipσl⎛⎜⎝S=αt S=β t 2.2 分裂長さの解析手法 噴霧先端到達距離は,噴射初期においては時間に比例し,噴射開始から時間が経過し準定常となった状態においては時間の0.5乗に比例することが知られている(5)(6)。本研究では,噴霧の発達状態が非定常状態から準定常とみなせる状態へと遷移する際の噴霧先端到達距離を分裂長さと定義した。これに基づき本研究での噴霧可視化試験及び既往研究から得られた噴霧先端到達距離の経時発達特性から,分裂長さを解析した。Fig. 1に本研究における分裂長さの定義を図示する。以下に示す式(2-1),(2-2)について,α,β をフィッティングパラメーターとして,噴霧先端到達距離Sの時系列データに対するフィッティングカーブを導出し,それらの交点における噴霧先端到達距離を分裂長さとした。(2-1)(2-2)Fig. 1 Definition of the Breakup LengthFig. 2 Breakup Length Against the Injection Pressure3. 結果と考察3.1 分裂過程に関連する無次元数 Fig. 2に,各条件下にて計測した噴霧の分裂長さ解析結果を示す。横軸は噴射圧力,縦軸は分裂長さである。Fig. 2中に記載のない計測条件については,可視化視野範囲内において,噴霧の発達挙動が準定常状態へ遷移せず,分裂長さの解析が不可能であった。Spray Against the Jet NumberJeFig. 3 Non-dimensional Breakup Length of the Inj. C 055.ρambρl = ここで,雰囲気場,及び液体種のそれぞれが分裂長さに及ぼす影響を独立して比較可能なInj. Cによる噴霧の分裂長さを対象に,ジェット数による整理を試みた。ジェット数は,液体噴流の分裂特性を評価する量としてしばしば用いられており(7),式(3)の形で表される,気液の相対速度を考慮した慣性力と表面張力の比を表す無次元数である。 ここで,Fig. 4に,噴霧の分裂特性に寄与する現象と関連する物理量の相関図を示す。インジェクターから噴射された液体は,主に雰囲気場との速度差,密度差による不安定性の励起により,その表面が変形する。そして,

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