マツダ技報 2021 No.38
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―160―(a)Single Hole Injector Spray(b)Multi Hole Injector Spray4. おわりにFig. 5 Dependence of the Non-dimensional Breakup Length on the Je×Reamb×Jasp加え,種々の噴孔諸元,噴射圧,液体種,雰囲気環境における噴霧分裂長さを既往研究報告(10)-(15)から分析し,多様な環境下での噴霧分裂長さを対象に,式(6)の予測精度を検証した。なお式(6)の諸量の計算に際して,液体の物性値について文献中に記載がない場合はBronkhorst社が公開している液体物性データベース(16)を参照した。雰囲気の動粘性係数については,予燃焼雰囲気場での計測データでは主要な希釈気体を,窒素充填雰囲気場では窒素を,それぞれ雰囲気の代表成分として,サザーランド式により算出した。 単噴孔及び多噴孔の分裂長さを対象に,式(6)を用いて回帰分析を行った結果をFig. 5に示す。Fig. 5(a)が単噴孔噴霧を対象とした回帰結果,Fig. 5(b)が多噴孔噴霧を対象とした回帰結果である。単噴孔噴霧の無次元分裂長さを予測対象としたとき,式(6)による予測値の平均絶対誤差率(MAPE)は12.8%とよい精度が得られた。多噴孔を対象とした時,MAPEは19.9%と単噴孔対象時と比較して精度が悪化している。そして,多噴孔噴霧の無次元分裂長さは,単噴孔噴霧の値と比べ短い。多噴孔化に伴う予測精度の悪化及び無次元分裂長さ短縮の要因としては,噴霧間干渉,すなわちコアンダ効果に起因する噴霧先端速度の減少が考えられる。コアンダ効果による噴霧先端速度低下作用を受ける場合,噴霧が準定常的運動に遷移する時期が見かけ上早期化し,結果的に噴霧先端到達距離から算出される無次元分裂長さが短くなると考えられるためである。更に,コアンダ効果による噴霧間干渉効果は,噴孔数や噴孔配置,及びコーン角等に依存性をもつために,多様な噴孔諸元を扱った際,モデル予測精度の悪化につながったと推測される。そのほか,噴霧の一次分裂特性に寄与するニードル及びキャビテーション挙動も,噴孔仕様により変動するため,多噴孔噴霧の分裂長さ予測精度悪化の要因として考えられる。今後は,更なる分裂長さ予測精度の向上のため,噴霧間干渉効果や,インジェクター内部流動特性を表現する特徴量の抽出を試みる。 噴霧の分裂・発達特性に深く関係する物理量である分裂長さに着目し,多種多様な液体噴霧の分裂長さを統一的に整理可能な指標の構築に取組んだ。その結果,表面

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