マツダ技報 2021 No.38
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―23―Fig. 10 Pedal Stroke vs. Longitudinal AccelerationFig. 11 Pedal Speed vs. Longitudinal JerkFig. 12 Motor Torque Control around 0 NmFig. 13 Sound Characteristic Change of Energy Nature(2)EVユニークのサウンド構成 EVサウンドを構成する音は,EVがもともともつ固有の特性由来のものとし,モーター回転数に比例する周波数の音(以降,次数音と呼ぶ)を用いた。モータートルクの増加に応じて,聞こえる次数の数と音量が増えるように設定した。また,次数構成は,ヒトにとって心地よいと感じるサウンドとするための工夫をした。留意したのは,周波数の上下限を設けたこと,協和度の高い次数構成にしたことである(Fig. 14)。 速度変化がよく分かるように,周波数の傾きが大きい次数音を使いたい一方,EVモーターは使用回転域が0から12,000回転と広いため,高い次数音はすぐに耳障りな高周波音となってしまう。そのため,上限周波数を決めるとともに,「次数音をスムーズに切り替えることでヒトには回転数が上昇しているように聞こえる」という無限音階理論を用いて,不快な高周波音を発生させることなく回転変化が分かるようにした。また,低周波の音が加速を,素早く踏み込めば鋭い加速をするという,ねらいどおりの緻密な加速コントロール性を実現していることが分かる。(5)トルクのゼロ点跨ぎコントロール EVにおいては,駆動トルクだけでなく回生トルクももつことから,トルクがゼロ点を跨いでプラス側とマイナス側を行き来する。この際,トルクの向きが変わるときに,ギヤのかみ合いによる機械的なバックラッシュ(ガタ)が発生する。具体的には,減速から加速に移行するシーン,逆に加速から減速に移行するシーンにおいて,モーターアクスルユニット内で発生する現象である。MX30 EVモデルでは,このバックラッシュを最小限にしつつ,機械的な限界でどうしても発生してしまうガタを抑制する制御を採用し,トルクのゼロ点跨ぎ時の滑らかさを実現した。 Fig. 12 に,制御の有無による車両挙動の違いを示す。制御なしの場合,モータートルクは電流指示のとおりに直線的にゼロ点を跨ぐが,バックラッシュの影響で車両の加速度にはショックが発生する。この現象に対して,ゼロ点付近におけるモータートルクの変化率を適切に制御することでショックを抑制した。これにより,一定車速を維持したいシーンや,加減速を繰り返すようなシーンにおいても,滑らかで心地よい挙動を実現した。2.4 サウンドによるトルクの知覚サポート ドライバーに走行状態をより正確に伝えるため,EVサウンドを開発した。これは,負荷に応じた音を発生しない電気モーターにおいて,駆動トルクに同期したサウンドをオーディオユニットによって人工的に生成し,乗員のトルク知覚をサポートすることで意のままの走りのコントロール性を実現するものである。(1)人と音の関わりを軸としたサウンド サウンド創りの根拠としたのは自然界の法則である。ヒトは,力の差を,音だけでイメージすることができ,無意識に次の行動に活かしている。力が大きいほど,発せられる音は➀低い周波数の割合が多く,➁周波数の数が多く,➂音量が大きくなる,という自然界の法則に由来する(Fig. 13)。

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