マツダ技報 2021 No.38
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―40―3. BEVの制御開発へのMBD適用事例3.1 プラントモデルへの対応:高速MILS 2011年デミオに初搭載したSKYACTIVG以降,マツダはMBD開発手法の一つとして高速MILSを用いたPCM機能性検証を行ってきており,その開発手法をBEVにも適用させる土台はあった。Fig. 3 System Scheme of ICEFig. 4 High-Speed MILS Basic Structure3.2 CAN中心の検証:HILS領域 HILSは実部品を搭載することで更に実機に近い検証が可能であり,主にハードウェアに依存するCAN/LIN通信,サプライヤーのハンドコード領域,実車での検証が難しいフェールセーフ機能の検証を目的に構築した。特にCAN通信やそのネットワークマネジメント機能は,通信周期に依存する機能分散型システムの協調制御において要となる機能であり,通信タイミングも考慮した検証環境を構築する必要があった。 そこでBEVのHILSは,高速MILSの要件に加えて,新規開発となるCANネットワークマネジメント・起動遮断システム・故障診断の機能性検証をソフトウェア開発V字モデルの検証フェーズで実現することを目標に構築した。具体的には,高速MILSのシステム構成をベースに,CANネットワークマネジメントを備えた通信環境,PCM-高電圧コンポーネント間の故障診断模擬機能,イグニッションOFF時のデータ計測環境を新たに組み込んだHILSを新規構築した(Fig. 5)。 そのため,システムのキーは,統合コントロールするPCMと高電圧コンポーネントが相互に情報をやり取りするCAN通信を中心としたシステムである。2.2 BEVの制御システムの開発課題 マツダでは,これまでICEを中心としたPTシステムがメインであり,PCMが多くのデバイスを直接コントロールする制御構造となっていた。 ICE車はPCMがエンジン,TCM(Transmission Control Module)がATに付帯するアクチュエータをハードワイヤで駆動させる形であり,イグニッションONするとクランキングを行い,エンジン回転が上がることで起動したと判定され,イグニッションOFFすれば各アクチュエータの電源がOFFされてICEが停止できていたため他のコントローラーとの干渉はほとんど存在しなかった(Fig.3,Table 1)。 しかし,BEVでは前述したとおり,PCMが各高電圧コンポーネントに付帯しているコントローラーと協調制御を行い,コンポーネントのアクチュエータを駆動させる機能分散型システム構成へと大きく変更しており,PCMと各高電圧コンポ―ネント同士が複雑に連携するシステムである。 そのため,BEVのシステムにおいて大きく課題となるのは, “高電圧システムにおける起動/遮断を含むCANネットワークマネジメント”であり,CANを中心としたシステム視点の検証環境の整備,各コンポーネントの設計・検証サイクルを滞りなくスムーズに回すことが開発期間短縮化への手段となる。 このようなBEV特有の課題に対して,高速MILS(1)(High-Speed Model In the Loop Simulation)/HILS(Hardware In the Loop Simulation)と段階的に検証を進めたMBDの適用内容と,ブレッドボード評価/システムベンチの実機を用いたコリレーション分析内容を紹介する。 しかし,開発当初マツダには電動デバイスのプラントモデルはなかったため,Key ON時の協調制御システムの起動/遮断シーケンス,ICEシステムに存在しなかったKey OFF時の車外の充電器や携帯端末によるリモート操作によるPTシステムの起動/遮断シーケンスについてソフトウェア開発V字モデルの設計フェーズで検証可能とすることを目標に,BEVの検証環境を構築することとした。 高速MILSではコントローラー間の協調機能となる起動遮断機能を再現するため,実機と同等にPCMを中心に各高電圧コンポーネントのコントローラーモデルと各デバイスのプラントモデルを配置,更に車両状態に応じた高電圧ラインを模擬し,モーターが駆動力をタイヤに伝える構造を新規構築した(Fig. 4)。 ICEのMILSでは必要なかったイグニッションOFF時のPCM起動/遮断を可能とするために高速MILSのGUI及びプラントモデルを新規開発した。 また,高電圧バスラインの電流の動きを再現し,高電圧バッテリーパックを中心に電流を受け渡す構造とし,車外充電器との協調制御を検証できるモデル構造としている。

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