マツダ技報 2021 No.38
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―44―Fig. 2 Electric Drive Control System ArchitectureFig. 3 PCM Software Architecture3. 電動化に伴う機能追加車間での多様性と開発効率を高める共通性を高次元で両立させることで,商品力を高めることを目指した。そこで,全ての電気駆動システムを統合制御するPowertrain Control Module(PCM)を中心とした制御システム(Fig. 2)と,PCM内部のソフトウエア構造を一括開発(Fig. 3)し,BEVとして必要な機能のみを取捨選択することでMX30 EV MODEL(以下MX30)の短期開発をねらった。 従来の内燃車(ICE車)では“走行機能”が主目的であったが,電動車では,充電・プリエアコンなどといったパワーソースを使用した機能が追加となる。そのため,マツダの次世代商品群で導入する電気駆動システムで想定する追加機能を抽出し,高電圧を扱って制御する高電圧システムの一括構造を構築した。本章ではMX30にて追加した機能を紹介する。3.1 MX30に実装する機能紹介 新型MX30ではICE車に対し以下に紹介する単機能(1)と,組み合わせ動作で商品性向上を図る機能(2)を追加した。(1)単独で動作する新機能DC充電(急速充電):急速充電機から駆動用バッテリへDC電力で充電する。AC充電(普通充電):家庭用コンセントなどからのAC電力をDC電力に変換して駆動用バッテリへ充電する。プリエアコン:出発時刻をあらかじめ設定する(タイマエアコン),またはスマートフォンで遠隔操作する(リモートエアコン)ことで,車に乗る前に,冷暖房やガラスの曇り取りを作動する。バッテリヒータ:駆動用バッテリの温度が低下すると走行性能や充電性能が低下するため,バッテリヒータによって駆動用バッテリの温度を保つことで,性能の低下を抑制する。バッテリクーリング:運転終了後の駆動用バッテリ温度が高温時,駆動用バッテリの劣化を防ぐために駐車中に駆動用バッテリを冷却する。補充電:12Vバッテリの消費が所定量を超えると,駆動用バッテリ電力から12Vバッテリを充電する。(2)組み合わせて動作する機能機能作動中の電力補填:プリエアコンやバッテリヒータ使用時に充電コネクタを挿入状態であれば外部電力系統から充電することで駆動用バッテリ容量低下を抑制する。除霜:ヒートポンプ運転で発生した霜を充電放置中に溶かすことで,次回の空調時にPTC (Positive Temperature Coefficient) ヒータより高効率な電動コンプレッサーの作動割合を増やし,効率を上げる。充電時のバッテリヒータ:冷間状態での充電時に駆動用バッテリを温めることで,早期に駆動用バッテリ受け入れ電力を上昇させ,充電時間を短縮する。3.2 複数機能追加への課題 3.1節で紹介した機能を安全性・利便性を両立し高電圧システム一括開発でMX30に実装していくためには,以下3つの課題に対してブレイクスルーが必要となった。(1)安全性と利便性の両立した機能実装 ICE車では,キーをイグニッションON状態にすることで全てのユニットを起動してきた。しかし電動車では,“充電”や“プリエアコン”といった,ユーザーが車両に不在の状態を想定した機能が追加となる。その際に全てのユニットを起動させると,本来作動させたくない機能が意図せず動作してしまうなどの安全上の懸念や,無駄な電力を消費してしまうことによる充電時間の増加や走行可能距離の低下,更に12Vバッテリ上がりの助長にもつながってしまう。そのため,安全性・利便性を両立させるためには必要なタイミングで必要なユニットを起動させることができるシステム構成が必要となる。(2)複数機能間の整合取り ユーザーの使い方によっては,各機能を同時に動作させようとするシーンも発生する。とはいえこのとき,これらの機能は,同時に動作させてはいけない背反機能と,同時に作動させる共存可能機能の関係性が存在する。例えば,ユーザーがAC充電中にスマートフォンで“プリエアコン”を作動させるシーンにおいては,“AC充電”と“プリエアコン”の両方を作動させたい。一方,“充

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