マツダ技報 2021 No.38
73/197

(1) 竹村ほか:新型MAZDA3の衝突安全性能,マツダ―66― 濵田 隆志 古賀 俊之 6. おわりにFig. 19 Head Injury Level in the Crash SpaceFig. 20 Front Bumper Grille Upper StructureFig. 21 Deformation of the Grille Upperに当たる可能性が高くなることから,ボンネットフードの前方に配置されるフロントグリルアッパー部(以下,グリルUP)の頭部傷害低減構造の開発に取り組んだ(Fig. 20)。 歩行者の傷害を低減するためには,ボンネットやバンパーフェースなどの構造部材の強度を低くして,歩行者を柔らかく受け止める必要がある。しかし,強度を低くした場合,必要なエネルギーを吸収するのに必要となるクラッシュスペースを長く確保しなければならず,デザインやパッケージを成立させるためには最小限のクラッシュスペースでエネルギー吸収することができるような構造が必要となる(Fig. 19)。 グリルUPの機能は,➀バンパーフェース全体を保持すること,➁お客様が手で押した時や走行時の風圧などで塑性変形しないこと,➂エンジンルームと外気との遮断の3点があり,➀と➁の観点から一定の剛性・強度をもたせる必要がある。一方,歩行者の傷害を低減するには,前述のとおりグリルUPの剛性を低くしてクラッシュスペースを確保する必要があり,商品性と傷害低減を両立することが必要となる。 外気遮断(前述➂)の要求からは,頭部が衝突する領域の剛性は低くてもよいこと,逆にバンパーフェースの保持(前述➀)と手や風圧に対する強度(前述➁)に対応した支持構造は,頭部が衝突する領域には必要ないが,面として剛性・強度は必要なことに着目し,これらの構造体を2つに分けることとした。具体的にはFig. 20のように,グリルUPの構造部材の上側,すなわち,頭部が衝突する部位は,剛性の低い樹脂(以下,PP)を用いた構造体とし,その下側に剛性の高いグラスファイバー入り樹脂(以下,PPGF)を用いた構造部材を配置した。 これにより前述➀,➁に必要な剛性・強度を損なうことなく,歩行者頭部を剛性の低いPP部に衝撃させ,クラッシュスペースを確保し(Fig. 21),商品性と傷害低減を両立することができた。 本稿では,新型MX30の衝突安全性能の開発概略について紹介した。昨今の急速な環境規制強化に代表されるように車に対するニーズが多様化する中でも,市場におけるさまざまな事故・傷害形態の分析と人間研究を軸として,新型MX30の成果を基に,より高い衝突安全性能開発を進めていき,今後もお客様によりよい商品を提供できるように努力する所存である。技報,No.36,pp.113-118(2019)■著 者■河野 勝人川船 良祐参考文献廣田 和起 石倉 一孝

元のページ  ../index.html#73

このブックを見る