マツダ技報 2021 No.38
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(1) マツダサステナビリティレポート2020■著 者■―72― 石井 哲雄 江口 覚 4. おわりにFig. 19 Layout of Floor ReinforcementFig. 20 Quality Control Process in 2-Power Sources VehicleFloor Reinforcement  このように,工程内での測定により精度へ影響を与える部位はつかめたが,この精度変化が溶接熱によるものか,沿い面精度によるものかを切り分けるために,スクリュー(ボルトアップ)検証を実施した。スクリューはスポット溶接部を溶接の代わりにボルトアップをしていくことで,熱の要素を排除した検証を行うことができる。この検証においてもスポット溶接検証と同様に,1打点ごとの精度変化を計測した。その結果,スクリュー検証では精度変化は0.2mm以下でほぼ変化しないことがわかった。続けて,沿い面隙の影響を検証した。沿い面隙を鉄板で詰めた状態でスクリュー検証とスポット打点検証を行い,精度変化を計測した。隙詰めスクリュー・スポット溶接検証では0.1mm以下の変化とわずかに減少したものの,大きな効果は得られなかった。以上の検証結果より,溶接熱収縮が構造剛性に勝っていることが要因であることをつかんだが,制御因子ではないため直接対策はできない。そこで,制御因子である,沿い面精度・打点順序・部品拘束条件を振って対応策を検証した。(5)施策 沿い面精度と打点順序を合わせてCAEを活用し検証した。Fig. 18で11打点目より変化していることに着目し,寄与度が高いと思われる沿い面,打点をグループ分けし,実験計画法を用いて解析した。CAEで相対的に比較して,精度変化が最小になる条件を抽出,実機で確認した。何度かPDCAを廻し,最適沿い面精度を導き,ねらいを決め,部品修正を行った。同様に打点順番も最も変化が少ない打点順番を導き工程へ反映させた。更に,量産期間中に安定した品質の車両精度を維持し続けるには工程でコントロールして,外乱を受けにくくする必要がある。そのため,UR工程での精度変化を予測したUT工程での部品位置決め・拘束条件,UR工程での形状規制により,電気のPFにおいてもねらいの寸法精度を実現し,同等の外観品質を実現した。(6)車両まで含めた外観品質の造り込み ボディーサイドパネルでデザイン面品質を保証し,ボディーでねらいの等価精度と外観折り合い精度を達成した後は,車両完成までの外観品質確認に取り組んだ(Fig.20)。塗装乾燥炉での熱影響分析ではドアー等蓋物の外観折り合いを検証し,ねらいの折り合い精度を達成できるように造り込んだ。車両組立では,エンジンとモーター,ガソリンタンクとバッテリーの搭載場所と重量差による精度差が出ないように,関係部署が一致団結して早期段階から検証活動を行い,MX30の外観品質を造り上げた。 マツダが2050年にカーボンニュートラル化を実現する上で,マルチパワーソースに対応したクルマ造りを加速していく必要がある。その中でも,マツダの独自性を訴求できるデザインを全ての仕様で再現し,お客様に感動をお届けし続けることを目指した活動を行っている。 MX30では全ての仕様で同じデザイン・寸法精度を再現するために多くの苦労と期間を要した。今後のマルチパワーソース化拡大に向けて,溶接による精度変化予測と構造・工程への事前対策織り込みを行うための技術開発・プロセス構築を関連部門一丸となって進めていく。今回の取り組みから見えてきた知見を技術へ転換することより,マツダの強みである「魂動デザイン」の進化へとつなげていき,お客様に更なる感動をお届けできるよう挑戦を続けていく。吉崎 真吾山田 孝行参考文献梶原 彰人 中塚 勇輝

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