マツダ技報 2021 No.38
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 Fig. 3に「一般的な3トーン塗装工程(a)」と「MX30に採用した3トーン塗装工程(b)」との比較を示す。 ボディー塗装用の上塗工程は,ボディー外板やドア開口部やエンジンルームなどボディー全体を塗装する長い工程となっている。(a)の工程でMX30の3トーンを塗装しようとすると,まずはボディー色の塗装,2色目のシルバー色,3色目の黒色と合計3回も上塗工程を周―74― Basecoat Clearcoat Basecoat Clearcoat 3.1 低温硬化塗料 一般的な自動車用塗料はおよそ140℃以上という高温での乾燥工程を経て,美観や耐久性能を発現する設計になっているが,塗料の硬化反応選択の段階で硬化に必要なエネルギーが決まる。 そこで,エネルギーを大幅に削減するために低温で硬化する塗料の開発が最重要課題と考え,今回新たに開発に取り組んだ。 具体的には,アクアテック塗装にて開発した2液硬化型クリアにおける塗料設計の考え方(3)を,今回の3トーン塗装ではベース層にも適用し,80℃で硬化する塗料を開発した。 新たな塗料を用いる上で,美観や耐久性を持ったねらいの塗膜をボディー表面に正確に付与するために,塗装した塗膜のシンナー揮発の時間変化などをシミュレー2. 工程設計の考え方3. 主要取り組みFig. 2 Paint AreaFig. 3 CO2 Emissions In 3-Tone ProcessBasecoatPreheatBasecoatPreheatBooth ClearcoatOven ClearcoatBooth Oven BasecoatPreheatBoothClearcoatBoothOvenBoothOvenOvenBasecoat BasecoatPreheatBooth Clearcoat ClearcoatOvenTop coat process(1st cycle) Top coat process(1st cycle) 1st color1st color2nd colorTop coat process(2nd cycle) 2nd color3-tone process 3rd color3-tone process (2nd cycle) 3rd colorTop coat process(3rd cycle) 2nd color 1st color CO2 (a)CO2 (b)3rd color  マツダでは「スリー・ウェット・オン塗装」や「アクアテック塗装」などの革新的な塗装技術により,世界最高水準の低環境負荷を実現してきた(3)。今後カーボンニュートラルの実現に向けて取り組みを進める中で,3トーン塗装による環境負荷の抑制を重要課題として位置づけ,環境にやさしい3トーン塗装を新たに開発した。 上塗工程の機能は,ボディーに美観や耐久性を持った塗膜を付与することである。具体的には,温度と湿度を一定に保った塗装ブースの中で塗料をボディーに塗装する。そして,高温に保った乾燥炉の中にボディーを入れて,塗料を化学反応で硬化させ,強固な塗膜をつくっている。 MX-30の3トーン塗装は,ボディーの下側半分をソウルレッドクリスタルメタリックなどのメイン色とし,ピラーとルーフサイドをシルバー色,ルーフを黒色とした合計3色の塗り分けを行う。 特に,2色目のシルバー色,3色目の黒色はボディーの上部半分に集中していることが特徴である(Fig. 2)。回させることになる。また,シルバー色と黒色に関しては,塗装する面積が小さいためボディー全体を塗装できる上塗工程は過剰能力であり,そこで消費されるエネルギーはロスである。これは,乾燥炉でも同じことが言える。 そこで今回,マルチトーン塗装に特化した専用工程を新たに設置し,そこで2色目と3色目の塗装をするようにした(Fig. 3(b))。加えて,今回は単なる専用工程をつくるのではなく,「必要な部位だけに必要な量だけ」という工程設計コンセプトの下,一般的な方法の(a)と比較して大幅にCO2排出量を削減できる新しい上塗工程の確立を目指した。この実現にあたっては,塗装工程及び乾燥工程における消費エネルギーの最小化が課題であり,以下の取り組みを行った。 1.材料の硬化温度を下げる 2.塗着効率の向上 3.塗装ブースのシンプル化,コンパクト化 4.乾燥効率の向上次章に具体的な課題への取り組みを述べる。

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