マツダ技報 2021 No.38
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―77―3.4 省エネ乾燥工程 塗装における乾燥工程の機能は,塗膜に熱エネルギーを与え,硬化させることである。 一般的な乾燥工程は,ボディーの外側だけでなく,ドア内板部などのお客様の目に触れるさまざまな部位に塗装された塗料を硬化させるため,高温の乾燥炉内にボディーを投入し,ボディー全体を加温する方式である(Fig. 10(a))。 しかし,今回の3トーン工程では,ボディー上部のみを塗装しており,全体を加温する必要はない。 従って,➀狙った部分(塗膜)だけに熱を供給する設備構造と,➁必要な時間のみ熱を供給する設備制御を課題ととらえ,以下の取り組みを行った。 ➀に対する施策として,アクアテック塗装のフラッシュオフ工程で用いた赤外線ヒーターにより放射熱で塗膜のみを温める技術を進化させ,ボディー上部の塗膜のみ加温する乾燥炉構造に改良した。具体的には,ボディー側面のピラー部を温めるヒーターを炉内側面に配置し,ルーフを温めるヒーターを炉内天井に配置して,塗装したエリアのみのヒーターを作動できる制御にした(Fig. 10(b))。Fig. 10 Oven(Front View)Fig. 11 Temperature Distribution By Thermography また,乾燥炉を出た後の検査工程で人が作業できるように安全性と作業性を確保できる温度まで,ボディーを冷却する工程が必要である。この冷却工程においても,乾燥工程と同様に,ピラーとルーフのみ局所的に冷却する考え方で設備設計し,冷却風量を少なくし,間欠運転することで冷却時間を最小化することで,工程全体の消費エネルギーを最小化できた。(a)General Oven Heated air(b)3-Tone Oven Infrared heaterHeated airExhaust(a)Heat Up By General Oven (b)Heat Up By 3-Tone Oven 85.0℃ 20.0 85.0℃ 20.0  しかし,アクアテック塗装におけるフラッシュオフは塗膜中の水分を蒸発させるのみの機能だったが,赤外線ヒーターのみで塗膜を硬化させるには,ボディー鋼板に多くの熱を奪われ,効率よく塗膜を温めることができない。そこで,ボディー上部のみの雰囲気を温める温風も併用することで,短時間かつ省スペースでの塗膜硬化を達成した。具体的には炉内側面に温風の吹き出し口を設け,炉内天井部から排気して循環させることで硬化させたい塗膜の付近のみの上部雰囲気を温めるようにした。また,これに対するノイズを低減するため,塗装ブース同様に,乾燥炉出入り口にはシャッターを設け,外気遮断を施している。また,ブースと同様にシャトル搬送を用いて,必要な作業時間をそれぞれ確保して塗膜硬化させるライン設計によりロスを最小化した。 次に,➁に対する施策として,工程内での塗膜に熱を与える効率を最大化するため,赤外線ヒーターの部位ごとによる出力・時間を可変制御できるようにした。塗膜は急激に温度上昇させると品質不良を招き,緩やか過ぎると生産性が低下する。そこで,塗色ごとの塗料の熱伝達率や熱伝導率に併せて最適な昇温ができるように出力部位・出力値・出力時間を制御することで,昇温と温度キープのためのエネルギーを最小化した。 以上のように,必要なところに必要なエネルギーを与える乾燥工程を実現し,3トーン乾燥炉でのボディーの温度分布を確認すると,温めるべき所のみが温まっている様子が観察できる(Fig. 11)。

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