マツダ技報 2022 No.39
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―1―Michihiro ImadaTechnologies Supported by People, and Understanding and Revitalizing People 巻頭言にあたり,マツダが文化とするモデルベース開発(MBD)について,その中で私自身が取り組んできたエンジン制御系開発でのMBDの振り返りから始めてみたい。 私が入社したのは30年以上前であるが,最初に配属されたエンジンの研究を行う職場の直属上司が「今田君,これからはソフトウェアの時代だよね。」とニコニコして話しかけてくださったのを覚えている。学生時代は電磁流体発電を研究対象とし,その設備や装置の規模の大きさゆえシミュレーションが主体で,電磁気学と流体力学の方程式を交互に解く,今で言えばMBDのコ・シミュレーションを,大型計算機を相手にコーディングしては実行する日々を過ごしてきていた私は違和感を覚えたが,当時の自動車業界はマイコンを用いたエンジン制御のデジタル化が始まった頃であり,決して多くはない新入社員の中からこの領域にあて育成してくださったことが今に繋がっていると改めて感謝している。 マツダのエンジン制御におけるMBD化が急速に進んだのは,2011年に導入を始めたSKYACTIVエンジンの制御系開発からと言えるが,その試行が始まったのは1990年代後半だったと思う。制御工学で多用するブロック線図や状態遷移図を描くとシミュレーションができて,さらに実装用のソフトウェアコードも出力されるという画期的な手法であったが,エンジン制御用のマイコンはまだまだ非力だった頃に実際に試すことは容易ではなく,専用のECU (Electronic Control Unit) の試作や開発環境作りに苦労しつつ実用化を進められた先輩諸氏の姿を思い出す。 その後2000年代半ば頃からは,商品開発の中での部分的な適用が少しずつ進められたが,2010年を前に,SKYACTIVエンジンの新開発と同期して,制御系も開発手法とともに一新することを狙った。ここで,モデルだけでエンジン制御全体を扱おうとするとシミュレーションが遅過ぎて実機依存型に回帰する懸念があったが,主流になってきたPCのマルチコアCPU化を活用し,自分達が作ったモデルの構造に応じてコアを割り当てることで並列処理度を高めたシミュレータを内製することで克服し,多くの制御開発者が手軽に扱えるようになって開発が加速したように思う。 エンジン本体のMBD化も進んでおりそのモデルに沿った多くの新しい制御機能も実現したことで狙いのエンジン性能を達成でき,また品質面においても,ソフトウェア規模の増加を考慮すれば7~8倍良くなったと捉えている。またこの取り組みを通じて若手技術者に力がつき,ベテランや他領域の技術者との協働も進んだことで,さらに新しい開発ができるようになったことも大きな効果であった。執行役員今田 道宏人が支え,人を理解し,人を活性化させる技術巻頭言

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