マツダ技報 2022 No.39
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―2― 以上は1つの事例であるが,今ではエンジン制御やシャシ制御などの「走る・止まる・曲がる」ための制御系に留まらず,先進安全制御,また情報系の車載機器群の開発にもMBDが多用されるようになってきた。ここではエンジン制御と比べると一段と多く,また異なる誤差因子や標示因子の種類や水準を相手に,いかにロバストかつお客様にとって扱いやすくするかが課題であるが,進化するIT技術を取り込み,AIとの融合も図り,自分達自身でも日々の開発業務に密着したツール群を作りつつクルマ一台分を目指して対応を続けている。ベテランも若手もその効能を実感する手法の進化と,それを扱い開発もできる人財育成をセットで行うのと合わせ,将来への仕込みも進めていきたい。 さて本号の特集はCX60だが,その開発や生産準備期間の大半が新型コロナウィルス禍の中であった。モノ造りである以上,リアルな活動が必要なところを,並行して業務環境を整えながら出社率を細かく制御し,試験車両への乗り合わせにも厳しいルールを課して進めてきたが,逆にこれまで培ってきたMBDの真価が試され,また挙げればキリがない様々な現場の工夫を重ねて産み出した商品でもある。 マツダがラージ商品群と称する大柄なクルマでありながらその大きさを感じさせない取り回しや人馬一体感,2クラス下のクルマと比べて遜色ない燃費,深化した魂動デザインと一段と高めた上質さに心を弾ませて頂き,MAZDA COPILOT CONCEPTの具現化第一弾となるドライバー異常時対応システムを含めてさらに進化させた先進安全技術群やドライバー・パーソナライゼーション・システム,使いやすさを増したコネクティビティシステムやコクピットHMIなど,普段の生活から万が一の時まで,また一人一人に寄り添うことで安心して運転して元気になって頂ける商品に仕上がったと考えている。 嬉しいことに,日本自動車殿堂様より『ドライバーサポートと緊急時対応の技術:マツダ CX60』および開発グループを「2022~2023日本自動車殿堂カーテクノロジーオブザイヤー」に選定頂いた。対象技術は「ドライバー・モニタリング」「ドライバー異常時対応システム(DEA)」「ドライバー・パーソナライゼーション・システム」の3つであるが,これらに共通し基盤としているのが,ドライバー,つまり「人」やその状態を検出する技術である。 そしてここでも,わずかな種から始め,先例のない中で研究段階から開発を積み重ね,「人を知る」ことを車載機能にまで高めた先達がいる。 なおこれも含め先例のない取り組みにお付き合い頂いている各社や研究機関の皆様には密な協働のお礼を申し上げるとともに,異業種からキャリア採用された技術者達の活躍も忘れずにおきたい。 掲げてきた「人間中心開発」の一端が表彰されたことが感慨深いのと合わせ,魂動デザインやダイナミクス性能も「人を深く知る」ことに根差しており,CX60はその集合体と考えている。 またMBDとAIの融合においても,最初に問題を作る,そして最後に答えを出す,または決めるのは人であるので,人にとってわかりやすい処理になるよう注力している。 マツダはこの「人を深く知る」ことを基盤に,個人の自由な移動手段であるクルマを楽しんで頂き,また乗るほどに元気になる人が増えて地域や社会が活性化していくのと合わせ,国や地域の事情に応じた柔軟な環境性能の提供や事業インフラの整備によって地球環境の保全と持続的発展に貢献したいと考えている。 「CASE」「100年に一度の大変革」「VUCAの時代」といった言葉に向き合う中でも,自動車メーカーとしての本来の使命や目的を忘れず,お客様一人一人を含めて人をよく知り,社会や地球の課題を認識し,何を作るかを懸命に考える技術者達が編み出す今後の技術群に期待したい。 読者各位においても,本号を読んで頂きながら,またCX60に触れて頂きながら,マツダが実現してきたことを感じ,また仕込みを通じて実現しようとしていることを想像し,楽しみにして頂けると幸甚である。

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