DEAはドライバー状態推定の結果及びドライバーとのインタラクションにより運転不能を判定し,運転不能状態においても,できる限り安全な制御の実現が必要となる。そのために以下の環境認識,車両制御,ユーザーインターフェースの技術を開発した。5.1 環境認識 DEAは,フォワード・センシング・カメラ,フロント・レーダー,サイド・レーダー,超音波センサーを使って常に周囲を監視している。各センサーの認識性能の特徴を組み合わせて走行リスクをとらえ,適切な判断を行う。フォワード・センシング・カメラでは車線境界線や道路の境界線や標識などを認識し,フロント・レーダー,サイド・レーダーで周辺車両や障害物などを認識する。カメラ画像とレーダー反射電波を組み合わせるフュージョン技術,更に自車が低速のときは超音波センサーも使用して障害物を認識することで,ロバスト性を高めている。特に路肩に寄せる時には,路肩に停車可能なスペースがあり,自車の進入ルートに障害物などがないことや,後方から車両が接近していないことを監視し,安全に停車できるように設計している(Fig. 6)。―112―5. 車両の制御4.3 ドライバー異常検知性能評価 ドライバー異常検知性能について,正検知,誤検知の観点から性能評価を実施した。正検知性能については,試験場内での実車走行,ドライビングシミュレーターを使ったデータ計測と机上でのオフライン分析から性能を評価し,想定されるドライバー異常状態を検知可能であることを確認した。 一方,誤検知性能に関しては,お客様のさまざまな使われ方を考慮し,一般の被験者の運転行動データ群(被験者:約170名,総走行距離 約40000km)の多様な運転シーンの計測データを用いて,オフライン検証モデルによる解析結果からドライバー異常の誤検知が発生しないように対策を講じた。具体的には,姿勢崩れの誤検知と居眠り状態の誤検知へ対策を施した。姿勢崩れに関しては,低車速や停車時には,運転に関する余裕度が高まり,異常姿勢類似行動が発生しやすくなることから,システム作動車速や判定時間を調整することで,誤検知を抑制する対策を実施している。また,居眠り状態の検知については,笑顔や眩しさなどによりドライバーが目を細める,下を見るなどの自然と目が細まる場面において,ドライバーの開眼状態を閉眼と誤検知するケースがあるため,そのようなドライバー行動を検出することで対策を施している。 ドライバー異常自動検知システムとして,とらえるべきドライバー異常には,ドライバー自身があらかじめ予測することが困難な体調急変である突然の脳疾患,心疾患,失神などがある。これらの体調急変に陥ったドライバー状態の一つとして急な意識消失があり,意識消失することで筋弛緩となり,姿勢が崩れるパターンがある。意識消失による姿勢崩れの発生メカニズムは,脳へ至る血流が乱れることによって脳の全体的な機能低下が発生し,その結果,脳幹部の姿勢維持機能が低下することで筋緊張が弛緩し,姿勢崩れに至る(5)。一方で,走行中は,ハンドル操作しながら,グローブボックスや助手席の床の荷物に触る等の,ドライバーの異常類似姿勢も発生する。よって,ハンドル無操作を組み合わせることにより,異常姿勢とそれに類似する姿勢を区別している。 異常姿勢を検知するための評価指標は,「ドライバー異常自動検知システム 基本設計書」を基に,顔向き(ロール角,ピッチ角),及び,顔位置(X,Y,Z方向)を用いて,異常姿勢を検知している。閾値に関しては,人間の骨格,関節の可動域や,順動力学による人体モデルシミュレーションである乗員安全解析ソフトウェアを使い,正検知(ドライバーの異常状態をシステムが異常と判定すること)と誤検知(ドライバーの正常状態を異常として判定すること)の双方を考慮した閾値を決定した。4.2 居眠り検知 マツダでは,2018年に発表したMAZDA3から,ドライバーモニタリングカメラを用いた眠気警報機能を搭載している。 今回,DEAの開発にあたり,新たにドライバーの居眠り状態の検知技術を開発した。眠気警報は,ドライバーの眠気が亢進した場合に警報でお知らせし,休憩取得をサポートする。一方,居眠り状態に陥ると,ドライバーは眠気に抗うことができず,運転を継続することが困難となる。このため,居眠り状態のドライバーに対してはDEA機能によるサポートを行う。 居眠り状態の検知技術を開発するにあたり,ドライビングシミュレーターや国内外の公道での走行データから,ドライバーの眠気の推移に伴う行動の変化や居眠り発生時の行動について分析した。また,国立大学法人東京農工大学で開発が進められているヒヤリハットデータベース(6)などの公道走行データから,居眠り起因の交通事故・ヒヤリハット事例におけるドライバー行動を抽出し,実際の交通環境におけるドライバーの居眠り行動の分析を実施した。この結果,居眠り運転時のドライバーは,その多くで数秒程度の閉眼を伴い,ハンドル操作などの運転行動が減少することがわかった。これらの分析結果に基づき,居眠り状態の検知には,ドライバーの閉眼状態と運転操作情報を用いている。
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