マツダ技報 2022 No.39
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 Fig. 1に今回の組立ラインの構成を示す。シリンダーブロック投入を初工程とし,ピストン・クランクシャフト等を組み付けるゾーンA,シリンダーヘッド・回転系部品を組み付けるゾーンB,燃料系・補器類部品を組み付けるゾーンC/Dの4ゾーンとシリンダーヘッドサブAssyラインで構成される。―146―3. 高効率フレキシブル生産の進化3.2 機種間作業時間差に対する取り組み 通常,エンジン組立ラインでは1ライン当たり60-80名の作業者が組立作業を行っている。機種混流をフレキシブルかつ高効率化する場合の課題は,作業時間差への対応である。例えば同じエンジンのターボあり/なしでは10分以上の作業時間差が発生する。この時間差は,ターボなどの補機類を組み付けるライン後半の工程で多く発生し,従来のラインではFig. 3のようなバイパスラインを用いて作業時間差を吸収してきた(1)。Fig. 1 Engine Assembly FlowFig. 2 Jig Pallet対応時にまだ大きな改造が必要な装置が残っており,更なるフレキシブル化と高効率化が課題である。(2)部品の大型化に対する作業工程の効率化 今回のSKYACTIVD 3.3は直4のSKYACTIVD 2.2に対して幅・高さに大きな差はないものの,長さについては約180mmの違いがあり,また重量においては約25kgも増加している。これらのサイズ拡大,重量増により,組立工程や部品供給工程において,作業時間が増加するという問題があり,いかに直4エンジン生産と同等な作業時間にしていくかが課題である。(3)エンジン新機能に対する品質保証の確立 新開発の直6エンジンでは,走行性能と環境性能を高次元で両立させるために,大排気量化と燃焼進化を同時に実現させている。大排気量化をトルクアップだけではなく,クリーン排ガス,希薄燃焼による燃費低減へ合理的に機能配分し,お客様への提供価値を向上させている。 生産ラインにおいては,ねらいどおりの機能が造り込まれていることを確認した上で,お客様にお届けするために,生産工程内で,基本機能に加え新機能の品質保証技術の獲得に挑戦し,お客様へお渡しするユニット1台1台の機能保証を実現した。 本稿では,上記3つの課題への対応策を3章以降で紹介する。 直6エンジンを生産するに当たり,将来の台数変動に対して既存の直4エンジンとの混流生産を前提としてライン設計を行った。その中で,機種混流をフレキシブルかつ高効率に対応した取り組み事例を以下に紹介する。3.1 組立パレットの共通化 マツダのエンジン組立ラインでは,初工程のシリンダーブロックの搭載からエンジン完成まで,同一の治具パレット上で作業を行い,組立作業内容によって正立/倒立の姿勢変換をしながら生産を行う。一般的にはエンジンのサイズに合わせて治具パレットを設計するが,同一組立ラインに直4エンジンの混流を想定すると,搬送・締付等の設備も共用する必要がある。そのため,治具パレットの外寸と製品の位置関係であるクランクシャフトセンター及び気筒中心の配置に統一することで,治具パレット基準で動作する装置に適用した。この基準位置の統一により直4エンジンの混流が可能となり,将来の台数変動に対してラインの稼働率を高く維持できる。また,クランクシャフトの高さを直4エンジンと統一したことと,製品サイズの拡大により,治具パレットとオイルパンの干渉抑制のため,開発部門とのコンカレント活動にて治具パレットのモデルを共有し,オイルパンとの干渉を回避する形状とした。 しかし,治具パレットと製品の位置決めに使用する加工基準穴は,直4エンジンに対して約200mm長く,位置決めピンがパレットから飛び出す形となったため,直4エンジン混流時にはワンタッチ段替えで対応可能な仕様とした。一方,治具パレットは,締付や圧入反力にも耐えうる強度が求められる。位置決めピンが中心位置から離れることにより治具パレットが受ける反力が強くなり治具パレットに微小な変形があった。その変形を抑制するために,剛性解析を繰り返し,応力を分散させる最適な形状を導き出した。 Fig. 2にエンジン搭載の治具パレットを示す。左から直4エンジン正立,直6エンジンの正立/倒立搭載状態の姿勢である。位置決め機構をフレキシブル対応することで,同一パレットに搭載可能としている。パレットを90度旋回することにより,正立/倒立の両方の姿勢で搭載できる構造とした。

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