マツダ技報 2022 No.39
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Clutch Drum DLDL AT内部には,クラッチプレートの締結,切離しを行い,動力を伝達,遮断するためのスプラインをもつ部品が多く組み込まれている。クラッチドラムはその代表的な部品である。従来クラッチドラムに使用している鉄の主な製造工程は,円板材からプレス加工,スプライン転造という塑性加工の後,別の構成部品(鉄)と抵抗溶接により接合する生産性の高い工法の採用が一般的である。長尺アルミクラッチドラムは,従来品の鉄と鉄の接合から鉄とアルミの接合という機械的性質が異なることから,生産性の悪化や適用不可能な場合が予測された。 アルミ適用時の課題と解決のための視点を3つ挙げる。(1)ネッキング予測技術の確立 成形性に大きく影響するのは「延性」である。鉄の伸び率約40%に対しアルミは約20%程度で半減し,同一―153―Conventional Clutch DrumDrum A Drum B Long Clutch Drum3. 課題解決にむけた取り組み3.1 プレス成形時のネッキング予測技術の確立(1)ネッキングを予測する評価指標としきい値 延性の低いアルミのプレス深絞り成形を手戻りなく実現するため,机上で工程設計,金型形状を評価し,最適な工程を導出することが有効である。 まず,アルミがネッキングを起こす条件を基礎実験(右バンク)で検証する。基礎実験は,局所的な延性の評価ができるVDA曲げ試験(ドイツ自動車工業規格の板曲げ試験)(1)とし,Fig. 3に示す曲げ型で試験を行う。ネッキング発生の判断は,パンチストローク中の荷重低下が発生した位置とした。Fig. 4は試験中の変位-荷重曲線であるが,荷重低下発生位置でのネッキング発生が確認できた。また,パンチストロークを徐々に短くしたところ,ネッキング発生位置を基準として-2mm付近でネッキング発生がなくなる状態を確認した(Fig. 5)。 次に,基礎実験の曲げ試験結果をCAE上で再現させ,ネッキングの評価指標としきい値を決定した。ネッキングは,材料が引張により延性の限界に近づいたときに発生するものであるため,評価指標を「最大主歪」とした。このコンター図をFig. 5のCAE結果に示す。実験とCAEの結果より,アルミのネッキングは最大主歪で評価可能であることを確認し,かつネッキングのしきい値を明確化した。Fig. 1 Cross Section of AT for FR and Target PartFig. 2 Clutch Drum(Conventional, Long) 次章以降,具体的な取り組みについて述べる。2. 長尺アルミクラッチドラムの課題加工技術による環境負荷低減(△2.7kg-CO2/unit)及び低コスト化を目指し,業界初のアルミ材を用いたクラッチドラム(Fig. 1)の塑性加工技術開発を行った。アルミは従来クラッチドラムに使用している熱間圧延鋼鈑(以下,鉄)に比べ,ネッキング,割れ(以下,ネッキング)という局所的な板厚減少が発生しやすい。また,今回の長尺アルミクラッチドラムでは,従来の前輪駆動(以下,FF)用AT向けクラッチドラムと比較してL/Dで2倍以上の絞り深さを必要とし(Fig. 2),成形時に発生するネッキングを抑制するために緻密に工程設計を行う必要があった。そこで今回,高い成形難易度に対する塑性加工技術開発と,融点の異なるアルミクラッチドラムと鉄系材料の構成部品の異材結合技術開発を行った。形状の成形を行った場合,アルミの方がネッキングを起こしやすい。(2)スプリングバック制御技術の確立 塑性変形後のスプリングバックに影響する「ヤング率」に着目した。スプリングバックとは,曲げ加工後に荷重を除荷すると,元の形にある程度戻る現象のことである。鉄のヤング率(約206GPa)に対しアルミは約70GPaで,鉄と比べアルミの方がスプリングバックは大きくなる。スプリングバックが増加すると,製品形状の寸法バラツキが大きくなることが分かっている。(3)異材結合工法選定プロセスの確立 接合に影響を及ぼす「融点」に着目した。鉄1538℃に対しアルミ660℃である。従来,鉄同士の動力伝達部品の接合にマツダが標準工程として採用している「抵抗溶接工法」は,塑性流動によるアンカー効果による高い接合強度を確保する工法である。しかし今回,アルミクラッチドラムと鉄の構成部品では,アルミが先に融点に達しアンカー効果を確保することができないため,抵抗溶接を成立させることが非常に難しい。代替工法の選定とプロセスの確立が必要であった。 長尺アルミクラッチドラムの塑性加工化実現には,これら3つの課題を解決する技術の確立が必要であった。

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