マツダ技報 2022 No.39
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(2)機能成立性の検証 カシメ結合部に求められる機能は,入力された動力をロスなく出力させることであり,変速時に動力のON・OFFが繰り返される耐久力も必要である。そのため,まず角材での単打点基礎実験(Fig. 11)により,アルミと鉄の板厚,カシメツール径,押し込み量及びカシメ後厚み(Fig. 10)と結合強度(抜き,せん断)との関係のデータベース化を行った。まず,実際のカシメレイアウトを模擬したテストピースでの一定のP.C.D.での多打点実験を行い,打点数と強度が比例関係にあることを確認した(Fig. 12)。その上で,基礎データをベースにツール径,打点ピッチ円径,打点数等に基づき,ユニット内レ―155― Clinching tool ・Punch・DiceDetail of Clinching pointSheets ・Steel・AluminumThickness of clinching Gear Assembly (material:Steel) Cultch Drum (material:Aluminum) Fig. 8 Consideration of Material FlowFig. 9 Result of Spring Back3.3 異材結合工法選定プロセスの確立(1)工法選定 アルミクラッチドラムにはATユニット上で動力伝達を行う機能が求められるため,クラッチドラムと高強度が要求されるスプライン,ギヤ等をもつ鉄の別の構成部Fig. 10 Overview of Clinching and Cultch Drumるいは転造量を減らすという対応がある。前者は生産性が落ち,ただし後者は,ねらいのスプライン形状が成形できないというデメリットがある。 今回,スプリングバック量を鉄と同等以下にするとともに,生産性と歯型成形性を高次元で成立させるため,転造時の塑性流動を従来工法以上に制御できる新工法開発に取り組んだ。 ここで,スプライン転造工程におけるスプリングバックの発生メカニズムは,転造時に材料が転造ローラーの回転方向ではなく周方向へ塑性流動することであると考えた。そのため,塑性流動の抑制を強化できる転造ローラーを検討・設計した。詳細設計のため,転造ローラーの軌跡を3D CADにより再現し,実際の転造中の現象と問題点を机上で再現した。 更に,転造ローラー回転方向への塑性流動と歯型成形性を両立できるローラー形状の検討を行い形状を決定した。具体的には,転造ローラー回転方向への塑性流動を強化するための材料押さえ構造を追加した。加えて,転造ローラーの軌跡を緻密に検討し,転造時に圧痕を発生させない押さえ構造とした(Fig. 8)。最終的に,新構造のローラーを採用することによって,アルミに対しても,鉄と同等以下のスプリングバック量と成形性向上の両立を確認した。併せて,机上検証の確からしさも確認した(Fig. 9)。更に本工法は材質に制約なく従来材料である鉄にも適用できる。品と結合させる必要がある。従来工法の抵抗溶接は,上述のとおり,アルミ,鉄異材間には適用できない。 これに基づき,動力伝達機構として世界初採用となる“絞り方式により母材同士を直接結合するカシメ結合”の適用に挑戦した。カシメ結合は,実現難易度は高いものの,他工法に比べて生産性向上と低コストの実現可能性が高い。そこでまず,カシメ結合の形状をAT内のわずかなスペースへレイアウトできるようにするため,開発部門とのコンカレント活動を行った。 まず,工法選定にあたり,動力伝達機構以外にも視野を拡大した。薄板の異材結合工法としては,拡散結合,溶融結合,メカニカル結合及び接着が候補工法として挙げられた。 次に,これら候補工法の採否検討にあたり,動力伝達に必要な結合強度が求められるだけではなく,走る歓びへの貢献に向け,高精度な重量バランス達成のために必要な同軸度,軸長,外径Min.化によるユニットコンパクト化を高次元で両立させなければならない。要求機能と合わせて生産性やコスト,実現性も含めて候補工法に対して重みづけ評価を行い,カシメ結合を選定した(Fig. 10)。

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