マツダ技報 2022 No.39
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―166―2. 車両組立ラインの特徴と課題2.1 車両組立ラインの特徴 車両組立ラインは,お客様に最も近い最終加工区であり,クルマ全体の品質を造り込む加工区である。車両組立ラインでは,2800点以上の多くの車両部品を取り扱っている。 組み立て作業の要素には,締結,嵌め込み,貼り付け等さまざまな組み付け方法の部品が混在しており,作業内容が多岐にわたり,自動化への課題が多い。そのため,作業者の技能を十分に発揮できることが重要になる。 また,多車種混流生産を行っていることがマツダの特徴である。エンジンレイアウトや使用燃料,駆動系及び車両サイズの異なるさまざまな商品を1つのラインで混流生産している。生産ボリュームの大きい自動車メーカーでは単一車種をラインに流して効率を上げることが一般的であるが,スモールプレイヤーのマツダは車両の構造違いによる作業時間差を吸収可能な混流生産によって生産ボリュームの大きいメーカーに匹敵する生産効率を実現している。 1つのラインの中で乗用車とSUVを混流生産することを「縦スイング」,同じ車種を国内や海外の複数の生産ラインにまたがって生産することを「横スイング」と呼ぶ。縦スイング,横スイングの混流生産により,需要の変動に柔軟に対応し,マツダの国内外複数の生産ラインがあたかも一体の工場のような生産システムを構築することで,世界中のお客様にお待ちいただくことなく,タイムリーにお届けできる生産基盤を整えている(Fig. 1)。Fig. 1 Flexible Production by Swing2.2 車両組立ラインの構成 車両組立ラインは,メインラインとサブラインで構成している。塗装工場で塗装されたボディーへ部品を組み付けて完成車へ仕上げるラインをメインラインとし,エンジンやサスペンション,インパネなどのメインラインで組み付ける前にあらかじめ大きなモジュールへ仕上げるラインをサブラインとしている。 混流生産において,車種間で発生する作業時間差はサブラインで吸収し,メインラインでは,あらゆるクルマを同一工程,同一設備で組み立てられる「シンプルベースライン」の考え方によって,混流生産での生産効率を高めつつ,縦横スイングを短納期かつ低投資で行うことが可能なライン構成としている。2.3 車両組立ラインの課題 マツダは,多様なお客様の要望にお応えすることができ,BEVやPHEVなどマルチソリューション戦略の商品をタイムリーに提供し続けることを目指している。そこで,異なる構造のクルマを効率的に混流生産するために作業時間の差を吸収する必要がある。更には,労働人口減少に対応しながら,技能を発揮することができる,作業者にとって優しい工程を実現することが課題である。 その課題を解決する3つコンセプトを考え,H2組立工場のリニューアル工事に織り込んだ。(1)車両の変化に柔軟に対応できる根の生えない設備 1つ目は,車両構造の変化に即応すると同時に,投資を抑制するためのコンセプトである。クルマの大型化や,電駆化に伴う新機能部品の増加によって1工程当たりのスペースを拡張したり,既存の工程では不足し対策を行う場合,エンジン・サスペンション自動搭載などの大掛かりな設備における改造の工事が長期化することが問題となっていた。その問題を解決するため,工程数やレイアウトを柔軟に変更できる「根の生えない設備」をコンセプトとすることで,短期間かつ低投資で進化するラインを目指した。(2) 作業者の能力を最大限発揮できる高効率混流生産ラ 2つ目は,混流する際の車種間の作業時間差によるロス問題を解決するコンセプトである。例えば,エンジンと電駆ユニットを両方搭載したPHEVでは既存の内燃機関と車両構造が大きく異なり,組み付け部品が多く,84分もの作業時間差があり,その差を効率的に吸収し,同時に,工程内でねらいの機能を造り込むことである。シンプルベースラインの考え方を,作業者のもつ能力を活かす観点で進化させる「作業者の能力を最大限発揮できる高効率混流生産ライン」をコンセプトとした。(3)働きやすさを追求した人に優しいライン 3つ目は,少子高齢化に加えて,定年延長による作業者の平均年齢の上昇などの人員構成変化の問題を解決すてきた。しかし,大物部品の組み付け自動化は設備が大がかりになるため,車両重量や車両サイズなど工程能力スペックを超えるクルマや部品に対応する際の多大な投資と長期の工事期間が問題となっていた。より広い居住空間を実現する大きなクルマや環境性能の高い電動車の需要が高まり,クルマのサイズと重量が上がる傾向にある中で,短期間に低投資で生産できる体制を構築し,また,お客様に喜ばれる価値のある車をお届けするとともに,組み立て作業者に対しては働きやすい作業環境を提供できる生産ラインを実現した。イン

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