(3)多種のパワートレインを組み立てできる汎用設備 多種のパワートレインでも同一の設備で生産するために,部品を組み立てるための加工基準を車種間で共通の「固定」と定義し,車種ごとに造り分けたい諸元や性能の差を「変動」と定義し,車両設計と設備設計を同時に行っている。 具体的には,エンジンやサスペンションなどの大型モジュール部品のボディーへの取り付け方法を固定とし,パワートレイン間で共通化している。一方で,アクスルは車高や車幅,車両重量に合わせて変動とし,車種によって取り付け位置を変えている。変動部は,位置決め具の取り付け取り外しのみで簡単に切り替え可能な設備にすることで,同一工程での組み立てを可能とした(Fig. 3)。―167―Front Axle Fig. 3 Fixation and Change of Vehicle and Facilities3.2 作業者の能力を最大限発揮できる高効率混流生 混流生産においては,商品仕様の違いにより,組み付けする部品点数が異なり,その作業時間差の吸収が効率生産の課題である。特に,従来の横置き内燃エンジンに加え,縦置きエンジンや,電気駆動のモーターでは,さまざまな部品のレイアウトや組み付け方向が異なり,適切な作業人員配置が難しくなっている(Fig. 4)。Fig. 4 Parts Layout of Various Power TrainsRear Axle 3.1 車両の変化に柔軟に対応できる根の生えない設備 車種によって構造が異なるサスペンションやパワートレイン,ホイールベースに対する設備の汎用性を低投資で高める「根の生えない設備」をコンセプトに工程設計を行った。その3つの事例を紹介する。(1)自動化ユニーク要件を排除した汎用性の高いライン 従来は,省人化のねらいからエンジン・サスペンション全自動搭載システムを採用していた。搭載隙要件を満たすため高い位置決め精度が必要であり,ボディー側,エンジン・サスペンション側の双方を設備で位置決め固定を行っていた。また,車種によってサスペンションをつかむ位置が異なるため,車両構造に対して専用の設備が多く必要であった。そのために,新車追加時に多額の投資や,長期の設備改造期間が発生し,また位置決めや固定方法に関して,車両構造側の制約条件が必要となっていた。そこで,自動搭載設備を重可搬AGVに変更し,ボディー側の搭載位置決めピン合わせや,サスペンションをボディー側締結位置へ誘導する作業を作業者が行えるようにしてフレキシブル性を高めた。(2)ソフトのパラメーター変更で柔軟に対応できる設備 これまでの自動搭載設備は地下ピットを要するため,簡単に設置場所を変更することができなかった。そこで,AGVに搭載リフター機能を付与し,生産台数を増やしたい場合はAGVを追加し,工程レイアウトはソフトで簡単に変更できるようにした。 また,搭載AGVに非接触センサーを活用し,フロント側の搭載AGVがボディーハンガーの形状を読み取ることで追従走行し,リア側のAGVがフロント側のAGVとの距離を認識し,リアルタイムでコントロールさせることで追従精度を高め,ホイールベース長の違いをソフトのパラメーター設定のみで変更できる設備を実現した(Fig. 2)。Fig. 2 Engine・Suspension Lifter AGVるコンセプトである。若手からベテランまで,多様な作業者を受容できる「働きやすさを追求した人に優しいライン」をコンセプトとした。 以上に挙げた3つのコンセプトによるH2車両組立ラインの進化のポイントを,第3章で紹介する。3. H2車両組立ラインの進化産ライン 従来のコンベア搬送では,コンベアで作業者の動線が分断され,前後からの作業アクセスが困難であったが,AGVによるマルチアクセス搬送方式(Fig. 5)に変えることで,作業者が左右に自由に行き来できるようになり,歩行ロスのない工程が可能となった。同時に全方位からの作業を可能とすることで,無理な作業姿勢を排除し,作業者の負担を減らして効率的な作業が実現した。
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