マツダ技報 2022 No.39
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(2)昇降台車搬送方式によるストライクゾーン工程設計 従来は,一度設置すると後から高さ変更が困難な工場梁から吊ったハンガーラインで車両を運搬し,その両サイドに作業人員を配置していた。そのため,作業者とボディーの相対的な高さが固定化し,人にやさしい作業高さにできておらず,更にハンガー自体のアーム構造が邪魔で,ボディーへの寄り付きが制限されていた。加えて,動くボディーに作業者が歩きながら追従するという作業負荷の高い工程であり,従来のエルゴノミクス基準は満足させてきたものの,それ以上の改善は難しい状況であった。そこで,昇降台車搬送方式を新たに採用した。この方式により,作業工程ごとにボディー高さを可変し,作業者中心の最適な高さに設定した。また,ハンガー構造での寄り付き制限もなく,より負荷の少ない作業姿勢が可能となった。 加えて,台車のフロア自体が進行方向へ動くため,このフロアに乗っている作業者は,ボディーに追従して歩行するという負荷もなくなった。成果として,従来のハンガー搬送方式と比較して348件の難姿勢を改善し,作業時間として8分の削減効果が得られた。 このストライクゾーン工程設計を早期段階で行うため,実際の工程条件を踏まえた作業姿勢を机上で数値化し,シミュレーションする手法を確立した。その取り組みについて4章で説明する。(1)ストライクゾーン工程設計 ストライクゾーン工程設計について説明する。従来から,エルゴノミクス基準に基づいた作業負荷の低減を行ってきた。しかし,高負荷の作業が全作業時間内にどのくらいの割合を占めているかを基準とするエルゴノミクスの考え方から,作業時間割合によらず,腰を曲げるなどの作業負荷の高い難姿勢を廃止するという,より高い目標を設定し取り組んだ。 具体的には,作業のしやすさの指標を作業姿勢とし,作業負荷の高い姿勢パターンを分類した(Fig. 7)。良い作業姿勢として腰曲げ量20°以下など定義し,その基準を達成する工法の検討と工程設計を行った。以下,前述した昇降台車搬送方式によるストライクゾーン工程設計について説明する。―168―4. 生産シミュレーション技術の進化Before Fig. 5 Multi-Access Carrier3.3 働きやすさを追求した人に優しいライン H2組立工場のリニューアルでは,少子高齢化社会を見据え,作業者にとって働きやすいラインの実現を目指した。このコンセプトを具現化するためには,初期構想の企画段階において,作業のしやすさを妨げる作業負荷を徹底的に低減する工程設計を行い,設備工事の計画に織り込むことが重要である。 その1例として,台車昇降搬送方式による腰曲げ作業等の難姿勢を廃止するストライクゾーン工程設計に取り組んだ(Fig. 6)。Fig. 6 Improvement of the Di■culty PostureAfter Fig. 7 Classification of the Work Di■culty 従来の働きやすさ(作業負荷)の検証手法は,作業高さや使用する設備,車両組み立て部品等を3Dデータで再現したデジタル上の車両組み立て工程(以下,デジタルファクトリー)において,検証者がディスプレー画面を見ながら,デジタル人間モデルの身体を操作し,作業のしやすさや作業箇所の視認性などの項目を検証していた(Fig. 8)。 本手法は,その作業の難易度,身体の重心及び工程内一連作業のつながり動作などを考慮したデジタル人間モデル作成が検証者の経験や勘に頼っており,判断にばらつきが発生し,検証精度に課題があった。

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