(1)ドライバー異常検知技術 脳機能の低下の生じ方は,急激に運転機能が低下するケースと,徐々に運転機能が低下するケースと大きく2つに分かれる。 急激に運転機能が低下するケースにおいては,急激かつ全般的に脳機能が低下して意識消失に至る。このようなドライバー異常を検知する機能としては,意識が消失して運転姿勢が崩れた状態,及び閉眼が継続した状態を検知する。 姿勢崩れは,ステアリングを把持できていない状態や頭部の動き,姿勢の位置・角度から判定し,閉眼は,まぶたの開き度合いから閉眼状態を検知する。(2)ドライバー異常予兆検知技術(1) 徐々に運転機能が低下するケースの多くは,大脳の機能がまず低下して,最後には脳幹という生命維持を司る機能が低下する。そのことから,まずは大脳が担っている意識的な行動に変化が起こり,次第に脳幹が担っている無意識的な反応のみが残る。こうした人の内部の変化メカニズムに基づけば,異常の予兆を検知できると考えた(Fig. 11)。―179―Fig. 10 How the System Monitors the Driver’s Fig. 11 Driving FunctionsConditionFig. 12 Visualization of Visual Attention Characteristics by Saliency Map調急変については,発作や疾患に伴う内因性事故の症例を分析した結果,脳機能の低下として症状が出る4疾患(てんかん,脳血管疾患,低血糖,心疾患)が事故の症例の約90%を占めることが分かった。そしてこれらに共通する症状である脳機能の低下を理解し,運転を継続できない状態になるリスクを,姿勢の位置・角度,視線や頭の動き,ステアリングやブレーキなどの運転操作から推定する技術に取り組んだ(Fig. 10)。また,居眠りを閉眼状態から判定する技術も積み上げた。 具体的には,以下a,b,c,の3つのパラメーターで検知する。a. 運転操作 運転操作は意識的な行動として見ているもので,その人の普段の操作から逸脱していないかという考え方に基づき,その人の運転シーンに応じたハンドルやペダル操作の予測値と,実際の運転操作の乖離度合いで推定する。b. 頭部の挙動 頭部の動きについては,無意識的な行動変化として,正常な振動パターンから逸脱していないかという考え方に基づき車両挙動に応じて生じる顔向きの振動パターンの変化で推定する。c. 視線挙動 視線挙動については,意識的・無意識的両方の側面があり,特定の箇所への視線の偏りが生じていないかという考え方に基づき,単に視線の動きを見るだけでなく,視覚的な情報を脳がどう感じているかをモデル化し,交通環境の変化に対する視線の動きと脳の反応モデルを組み合わせて推定する。 原理的に,人の視線挙動には,意識的に注意を向ける行動と,無意識的に注意が引かれる行動がある。 前者では,ドライバーが危険を予測したところに視線を向ける行動やミラーやメーターを確認する行動が該当し,後者では,色や輝度,動きなど,視覚的に目立つところに視線が向く行動が該当する。通常は,この2つがバランスを取りながら視線を動かしていると考えられる。 しかし,脳の機能低下が生じると,まずは大脳の機能低下が生じ,意識的な視線挙動が消失し,無意識的に注意が引き付けられやすいところに視線が偏ってしまうと考えられる。この状態をとらえるためには,注意が引き付けられる箇所を特定する必要がある。そこで脳科学の知見を取り入れ,脳内の視覚情報処理のメカニズムを計算モデルに置き換え,運転中どこに注意が引き付けられやすいかをリアルタイムに特定可能なアルゴリズムを開発した。この注意の引き付けられやすさをサリエンシーと呼び,空間上に配置したものをサリエンシーマップと呼ぶ(Fig. 12)。
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