マツダ技報 2022 No.39
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(2)計測結果 計測した結果をFig. 11に示す。なお,ヒーブは車両の四隅に取り付けた対地車高計の計測値から求め,PCM内のKPCフラグを他の計測値と同期して計測した。 Fig. 10と同様にKPC ONを赤線,KPC OFFを黒線で示しており,図中のKPCフラグより5~7秒の間でKPCが作動していることが分かる。KPC作動中のヒーブを比較すると,KPC ONではヒーブが小さい。ヒーブが抑制された後,7秒以降の操舵角がKPC ON/OFFで異なる。KPC ONの場合滑らかに切り戻しているが,KPC OFFでは切り戻し初期が急峻な操舵をしている。また,ヨーレイトについて7秒以降は操舵角が変わり違いが生じているが,KPC作動前はほとんど差がない。Fig. 12左図は,操舵角とヨーレイトの関係を示しており,KPC ON/OFFで差がないことが分かる。一方,右図のヒーブはKPC ON/OFFで明らかな差が見られ,KPCによって1 [mm] 程度ヒーブが小さくなったことが分かる。 以上のように,Uターン旋回をKPC ON/OFFで比較した結果,4.1節のフルビークルシミュレーション結果と同様にKPCによってヨーレイトはほとんど変わらず,ヒーブはKPCありで小さくなることを確認できた。また,ヒーブの減少によりドライバーの操舵行動が変わり,―191―KPC ON KPC OFF Front Inner ParametersWheelYaw RateRoll AngleHeaveKPC ON KPC OFF Front Outer Rear Outer Wheel0.36% Decrease0.37% Decrease0.08% Increase0.09% Decrease0.54% Decrease0.30% DecreasePitch Angle4.15% Increase2.96% Increase0.93% Decrease0.65% Increase0.74% Decrease4.70% Decrease 以上の結果より,制御輪が旋回内後輪の場合,ある制動力の範囲内であればヨー・ロール及びピッチ運動をほとんど変化させることなく,ヒーブのみ抑制が可能であることを確認した。Table 1に示すように,今回KPCを実装する車両はリアのアンチリフト角が22.2 [deg] と大きく設定されているため,僅かな制動力で大きなアンチKPC ON KPC OFF WheelFig. 9 Lissajous Graph of SimulationSimulation at Steering Wheel Angle=60[deg]Fig. 10 Trajectory 操舵角60 [deg] 時点のヨーレイトは0.08%増で,KPC ON/OFFでの変化はほぼない。また,ロール角とピッチ角についてもそれぞれ0.34%減及び0.55%増であり,KPC ON/OFFでほぼ変わらない。一方,ヒーブは3.16%減となり他の変化と比べて大きい。切り込み側の操舵に対するヨーレイトとヒーブの関係をリサージュ波形でみても,ヨーレイトはKPC ON/OFFで差がほとんどないが,ヒーブはKPC ONで小さくなっていることが分かる(Fig. 9)。このように,旋回中の操舵に対するヨーレイトの応答が小さい範囲で,旋回内後輪に制動力を発生させることにより,ヨー・ロール・ピッチ運動を変化させず,ヒーブのみ抑制できることを確認した。 ここで,KPCで制動力を付与する旋回内後輪以外の輪に,KPC同様の制動力を発生させた場合のヨー・ロール・ピッチ及びヒーブ運動について調べた結果をTable 3に示す。旋回内外の前輪の場合,特にピッチ角が約3~4%増と大きく,ヒーブ変化はほぼない。しかし旋回外後輪の場合,ヒーブは4.70%減でTable 2に示す旋回内後輪に比べて大きく(約1.1倍),ヨーレイトも同様に0.37%減と大きい(約4.6倍)ため,旋回内後輪と同様にヒーブの抑制が可能な一方で,ヨー運動を減衰させる力が発生しやすいことが分かる。Table 3 Change of Response by Each Wheel Braking on リフト力が発生する。このため,ヨー運動を変化させることなく,車体のヒーブを抑えることができる。4.2 実走計測による検証(1)走行モード 4.1節の机上シミュレーションと同様に進入車速54 [km/h],最大操舵角80 [deg] 程度のUターン旋回における実走行でのKPC効果検証を実施した。進入前の直進中に車速を合わせ,その後は計測用の専用装置でアクセル開度を一定に制御し,ドライバーはステアリング操作のみ行って旋回する。インフォームドコンセントを行った上で,できる限り同様の走行を被験者に指示し,実験を行った。実測した走行軌跡をFig. 10に示す。KPC ONを赤線,KPC OFFを黒線で示しており,KPC ON/OFFにかかわらず同様の軌跡で走行していることが分かる。

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