5)無線子機の耐久性 無線子機がタイヤや前方車両からの被水や走行中の振動においても稼働する堅牢性をもつために,以下の対応を行った。➀無線送信用のアンテナ及び電源を内蔵した。➁無線子機を堅牢な樹脂で密閉した。➂完全密閉すると送信力低下やバッテリー性能低下があるため,一部は通気性かつ水密性をもつ構造にした。3. 腐食環境の定量化及び予測技術の開発 腐食環境計測システムの開発により,実走行することで各地の腐食環境を計測することができるようになった。一方で,世界中を計測するには莫大な時間や費用がかかるという問題がある。 この問題を克服するため,市場の気象データなどの環境データから腐食環境を予測できるモデルを開発し,世界の腐食環境を予測し特定することとした。 車載した各センサーの出力及び同時に装着した鋼板試験片の腐食量を実測することにより,腐食量予測モデル開発を次のアプローチで取り組んだ。➀ACMセンサーの出力と鋼板腐食量の関係を明らかにし,関係式を構築する。➁ACMセンサーの出力と腐食環境データの関係を明らかにし,関係式を構築する。 この2つの関係式を繋げることで,腐食環境データから鋼板腐食量を予測することができるようにする。3.1 ACMセンサー出力と鋼板腐食量の関係 ACMセンサーはAg-Feの電位差によるガルバニック腐食であるが,鋼板の腐食は鋼板の表面に微小な電位差が生じ,鉄単体で錆が発生する。このようにACMセンサーと鋼板の腐食メカニズムは異なるが,大気腐食環境下では,ACMセンサーからの電流値の時間積分である電気量と鉄の腐食速度の間に相関があることが知られている(1)。 しかし,降雨や路面の水のタイヤの巻き上げによる濡れ量が大きい時は鉄の腐食に対して過大な電流が発生する(2)。したがって,濡れ量が大きい自動車の腐食環境では,ACMセンサーからの電気量と鋼板腐食量の相関性が低くなる。この問題を解決する手段の1つとして,過大出力を補正するためのしきい値を設け,しきい値以上の出力を一定の値に補正する方法が知られている(3)。 しきい値は補正後の電気量が鋼板腐食量と相関性をもつように決められるものであるが,モデル化のためにはしきい値がどのような腐食因子に影響を受けるかを明確にする必要がある。 腐食因子としては主に水,塩,酸素があるが,車両にとって過酷な腐食環境は塩の由来によって2つに別けられる。海塩粒子が大気中に多く含まれる沿岸部,冬季に(1)しきい値設定の課題 電流のしきい値の設定方法として,しきい値の水準としきい値以上の出力の補正方法をあらかじめ用意し,全てのパターンで電気量を計算して相関性が最も高いものを採用する方法が考えられるが,測定したデータは電流値約20000点×11部位×2地点と大規模であり計算コストが高い。そこで,電気量をしきい値ごとに区分し,区分した電気量と補正係数の線形和を腐食量に線形回帰することによって,相関性の高いしきい値及び補正手法を同時算出する手法を構築した。(2)しきい値設定の手順 詳細を以下の3つのステップで示す。➀電気量は電流の時間積分であり,すなわちFig. 5(a)に示す面積(斜線部分)になる。➁しきい値を電流値によって区分する。具体的には,Fig. 5(b)のように斜線部分の面積を電流方向に区分けした長方形で近似する。➂区分けした長方形の面積の和と鋼板腐食量に相関関係があると考え,Fig. 5(c)のように区分けした長方形の面積の線形結合が鋼板腐食量となるような回帰式を作り,LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)(4)で回帰モデルを推定する。―196―#1A/C condenser#5Roof#9Center floor#2#3Suspension towerFront wheel house#6#7Trunk lidFront suspension crossEngine under cover#10#11Rear frameSide sills#4Rear door#8Fig. 4 Environment Measuring Point凍結防止剤を多量に散布する豪雪地域である。日本国内において,海塩環境は沖縄,凍結防止剤環境は北海道が代表的な地域であるため,これら2地点においてしきい値を分析することで,国内の腐食環境と鋼板腐食量を予測できるようにする。 しきい値の分析にあたり,海塩環境としては沖縄県浦添市において1年間実走行し計測したデータを,また凍結防止剤の環境としては北海道札幌市において1年間実走行し計測したデータを使用した。 ACMセンサーと鋼板試験片を,ホイールハウス内,ドア,ルーフ,トランクリッドなどFig. 4に示す計11か所に取り付け,データを測定した。
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