(3)空調モデル コンプレッサーや膨張弁の制御及び,外気などの外部環境に応じて,キャビンの熱移動を計算する。キャビンの熱伝導方程式に,外部からの受放熱量と,冷凍/ヒートポンプサイクルの流体モデルからもとめた外気との熱交換量を用いて,キャビンの温度を算出する。なお,冷凍サイクルモデルはバッテリーへ分岐し,バッテリー冷却部の熱伝達率を算出する。コンプレッサーなどの電気負荷は,バッテリーの出力に追加される。(4)ドライバーモデル 車両モデルの車速に応じて,パワートレインの操作を行う。目標の車速(検証する走行パターン)と車両モデルの車速を比較し,PIフィードバック制御によりパワートレインに指令する駆動力及び減速力とペダル操作量を算出する。(5)制御モデル エネルギーマネージメント制御や熱マネ制御及び,空調制御など,車両システムの動作に必要な制御を実装している。各ハードウェアの消費電力や温度,そしてドライバー操作量の情報を用いて,モーターやコンプレッサーなどに制御値(モーター駆動力の上限値やコンプレッサー回転数など)を指令する。3. 解析対象車両 1D車両全体モデルとは,車両を構成する各コンポーネントの熱流体,電気,化学,機械の機能を1Dで表現し,各系を強連成した状態で解析が可能な1Dモデルである。Fig. 1に示すように,ハードウェア機能の車両モデル,EVユニット/冷却回路モデル,空調モデルと,それらを動かすドライバーモデル,制御モデルから構成する。ハードウェアのモデル間は熱(赤線),電気(黄色線),機械(黒線)のつながりをもち,各系のエネルギーの授受を示す。なお,解析ソフトはGamma Technologies社のGTSUITEを用いている。以下に各モデルの機能を紹介する。 xEVでは電駆とエンジンを組み合わせた構成にする場合もあるが,本稿では電駆の熱マネに着眼し,BEVのMX30 EV MODEL (以下,MX30)を対象に行った,モデル開発(第4章)と熱マネシステムの検討例(第5章)を紹介する。 MX30の熱マネの特徴は,バッテリーの電力の入出力性能を最大化するために,空調システムの冷媒を用いたバッテリークーリングシステムを採用しているところである。Fig. 2に示すように,空調システムからバッテリーに対して冷媒流路を分岐しており,バッテリーが高温になった際にバッテリー側の膨張弁を開き,冷媒を分配する。なお,その他の電駆コンポーネントは水冷システムとし,空調システムは冷房と暖房の両シーンで使用可能なヒートポンプシステムとなっている。(1)車両モデル パワートレインからの駆動力に応じて,車両前後方向に対する車両の加減速を計算する。車両の運動方程式に,モーターのシャフトから伝達した駆動力と車両側の走行抵抗や路面勾配抵抗,ブレーキなどの抵抗負荷を用いて,車速を算出する。(2)EVユニット/冷却回路モデル モーターの駆動及び回生量に応じて,各電駆コンポーネントの電気の入出力と熱移動を計算する。電気の入出力の計算では,電気回路の状態方程式より,各コンポーネントの入出力の電力を算出する。また,熱移動の計算では,各電駆コンポーネントの熱伝導方程式に,発熱量と,冷却回路の流体モデルから求めた冷却部の熱伝達率を用いて,各部の温度を算出する。なお,バッテリーの冷却には空調冷媒を用いるため(第3章),バッテリー冷却部の計算は下記空調モデルで行う。―207―2. 1D車両全体モデルの概要Fig. 1 Vehicle System 1D Simulation Model化するシステムにおいては,コンポーネントごとのモデルを用いた従来の個別最適化のMBD手法では検討に限界がある。そこで,xEV車両内のマルチ・フィジックスの現象を解くことが可能な1Dの車両全体モデルを構築し,V字開発プロセスの左バンクでの熱マネシステムの全体最適化のMBD手法を開発した。 本稿では,1D車両全体モデルの概要と,モデルの予測精度の向上技術を述べた後,実際のBEV開発での適用を想定したモデルでの熱マネシステムの検討例について紹介する。
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