マツダ技報 2022 No.39
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(3)モデルの妥当性検証 Fig. 5に,モデルの妥当性検証のため,評価ベンチを用いてモーターを定常駆動した際の,コイルの実測温度をモデルと比較した結果を示す。冷却水への放熱予測の妥当性を確認するために,冷却水の流量を複数条件設定している。黒色の実測に対して,改善前(赤色)は放熱を再現できていなく,最大で約16%高く温度を予測していた。一方で,改善後(青色)は約2%まで予測精度が向上し,精度よく予測できていることを確認できた。Fig. (2)予測精度向上のアプローチ 熱モデルでは,対象部の熱容量と受放熱量から温度を計算する。ここでは,熱容量を部品の質量から求め,発熱量については磁場解析より精度を担保しているため,コイル温度の予測精度の向上方法として,コイルの放熱量に着眼した。 コイルからの主要な放熱経路は,接触しているステーターを介してウォータージャケット内の冷却水に放熱する経路である。この経路上で想定される,ハウジングから冷却水への放熱量の予測精度の課題に対して,ウォータージャケットの流体モデルの詳細化による改善を図った。冷却水への放熱量は,ハウジングと冷却水の熱伝達率によって決まる。熱伝達率は流速に依存するため,冷却水の流速予測精度が重要となる。そこで,ウォータージャケット内の流速分布を1Dで再現可能な流体モデルの実装を行った。Fig. 4に示すように,ウォータージャケットの形状CADから1Dに縮退し,3DCAEでの流速解析結果と同じ分布になるようにパラメーターの調整を行った。 1D車両全体モデルでは,複雑な形状での流れや伝熱など,3Dの異方性が強い現象での挙動の再現性に課題がある。また,モデルに設定した特性データの前提条件から外れた入力に対しても,誤差が生じやすい。そこで本章では,BEVの中でも航続距離の確保に特に重要な動力変換とパワーソースの機能を担う,モーターとバッテリーを対象に,上記の課題に対する3点の予測精度の向上技術について紹介する。4.1 モーター:3DCAEによるコイル温度予測精度 モーターでは,特にコイルについて,高温になると銅線の絶縁被膜の絶縁性の消失によるショートが生じてしまうため,温度管理が求められ,モデルでのコイル温度の予測が重要となる。本節では,3DCAEを活用して,モーター熱モデルでのコイル温度の予測精度を向上させた手法について紹介する。(1)モデルの構成 MX30のモーターは,埋込磁石型同期モーターであり,ハウジング内には冷却水が流れるウォータージャケットを設けている。Fig. 3では,対象モーターの熱モデルを示しており,各構成部品の熱容量と各接点間を結ぶ熱抵抗からなる伝熱モデルと,冷却部での放熱量を計算する流体モデルで構成する。計算コストと予測精度を両立するために,温度分布を予測したいコイルについては複数の要素に分割し,その他の部品については単一の要素で表現している。なお,発熱部位はコイル,ステーター,ローター,磁石として,発熱量は磁場解析より算出した発熱特性とモーターの回転数及びトルクより算出する。―208―4. モデルの予測精度向上技術Fig. 2 MX30 Cooling System for A/C and BatteryFig. 4 Fluid Flow Simulation Result of Motor Water Fig. 3 Motor Thermal 1D ModelJacket by 3DCAE and 1D Modelの向上

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