マツダ技報 2022 No.39
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(1)電圧降下現象予測のアプローチ 化学反応に基づいて電圧を予測するためには,電気化学反応とイオン輸送の方程式を連立して解く,Newmanモデル(2)による計算手法を用いるが,電極の材料特性や形状などの詳細な情報が必要なため,セル内の構造がブラックボックスの状況下では精度を担保することが難しかった。また,複数の方程式を解く性質上,計算コストが高く,車両全体モデルでの使用に適していなかった。これらの課題に対する改善策として,機械学習の適用を図った。 Fig. 13では,実装した機械学習モデルの概略図を示しており,バッテリーの入出力電流や温度など電圧の予測に必要な情報を説明変数に選定し,ニューラルネットワークを構築した。重みの学習には,単セルでの高レート放電時の実測の電圧データと,既存の等価回路モデルでのモード走行(WLTCなど)の計算時の電圧予測データを用いた。その結果,特異な電圧降下と通常走行時の電圧の両挙動を高精度で予測可能とした。(2)モデルの妥当性検証 Fig. 14に,モデルの妥当性検証のため,単セルでの高レート(低温)の放電とモード走行模擬(常温)の充放電時のセルの実測電圧をモデルと比較した結果を示す。黒線の実測の電圧挙動に対して,従来の等価回路モデル(赤線)ではモード走行時は高精度で再現可能だが,高レートの放電時には誤差が最大で約18%あり,再現できていなかった。一方で,改善後の機械学習モデル(青線)では,高レートの放電時においても約4%となり,両条件にて精度よく電圧挙動を予測可能なことが確認できた。さらに,計算コストを調べたところ等価回路モデルと同等であることが確認され,熱マネシステムの検討に有効なモデルとなった。―210―Fig. 10 Comparison Result of Battery Temperature between Experiment and Simulation4.3 バッテリー:機械学習による電圧降下現象の予測 低温時のようなセル内の化学反応速度が十分確保できない状態で高出力の放電をした場合,電圧が急降下する現象が生じる。Fig. 11では,単セルでの高レート(電池容量に対する電流の相対的な比率)の放電試験を行った結果を示しており,低温になるほど本来の充電容量を使い切る前に電圧が降下する。電圧降下によって保証電圧を下回った場合,走行を停止する必要があり,目標の航続距離を満たすシステムの決定には,本現象をモデルで予測することが重要となる。Fig. 11 Comparison Result of Battery High Rate Fig. 12 Battery Voltage Equivalent Circuit ModelDischarge TestFig. 13 Battery Voltage Prediction Neural NetworkFig. 14 Comparison Result of Battery Voltage between Experiment and Simulation線)は中央側に配置されたセルの温度推移を示す。黒線の実測の温度分布に対して,改善前(薄赤線,濃赤線)は分布を再現できず,各セルの温度が近しい値となり,差が大きかったセルNo.1では誤差が最大で約8%あった。一方で,改善後(薄青線,濃青線)は約4%まで向上し,温度分布を精度よく予測できていることを確認できた。 しかし従来の電圧予測手法では,Fig. 12に示すように等価回路モデルを用いて特定のパルス試験の結果からパラメーターを同定していたため,特異な本現象の再現性に課題があった。そこで本節では,化学反応に着眼し,機械学習を活用して電圧降下現象を予測可能とした手法について紹介する。

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