マツダ技報 2022 No.39
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―211―5. EV熱マネージメントシステムの検討例 本章では,実際のBEV開発での熱マネシステムの検討を想定した1D車両全体モデルの適用例を紹介する。BEVにおいても外気温にかかわらず目標の性能を満たす必要があり,本稿では,各コンポーネントが高負荷状態になる高速走行のシーンを対象に,高及び低外気温の条件にて解析を行った。5.1 BEVの高速走行での焦点 BEVの高速走行では,まず高外気温時には,電駆コンポーネントが高温となり,所定の温度以下にあることの確認が求められる。昇温抑制のために冷却が必要な場合,特に,MX30のバッテリー冷却では,空調システムの冷媒を用いているため(第3章),バッテリーの冷却性能と空調快適性の両立が必要となる。Fig. 15では,冷房時にバッテリー冷却をする際のキャビンとバッテリーの温度推移を示しており,バッテリーの冷却のために冷媒を分配すると,キャビンの温度が上昇する。バッテリーへの冷媒の分配量が多いほど,空調快適性が損なわれるため,バッテリーの冷却性能を満たしつつ,空調快適性の悪化を許容できる最適な冷媒分配量の検討が求められる。Fig. 15 Temperature Behavior of Cooling System for Air Conditioning and BatteryFig. 16 Comparison Result of Vehicle System Behavior 5.3 熱マネシステム検討の解析結果 Fig. 17に熱マネシステム検討の解析結果を示す。高外気温において,バッテリー冷却時の冷媒の分配量はバッテリー側の膨張弁のリフト量で制御を行う。そのため,モデル上でリフト量を複数条件設定して,各条件でのバッテリーとキャビンの温度の推移を比較した。リフト量の小さいピンク線と緑線では,空調快適性は保つことができるが,バッテリーとしては冷却エネルギーが足りず,目標の冷却性能を満たすことができなかった。一方で,リフト量の大きい青線ではバッテリーの冷却性能は満たせるが,空調快適性を顕著に損なう結果となった。以上の結果より,緑線と青線の中間のリフト量にすることで(赤線),バッテリーの冷却性能を満たしつつ,空調快適性を許容範囲内に保つことができることが分かった。また,モーターのコイル温度についても上限の温度以下を推移していることを確認した。 次にFig. 17のバッテリー電圧の結果では,低外気温時(暖房用ヒーター作動)の結果を追加しており(黒線),高外気温時と比較すると電圧降下が顕著に生じていることが分かる。電圧降下は生じるが,目標の走行時間の間,暖房用ヒーターを作動しながら電圧を保つことができており,低外気温においても航続距離と空調快適性を満たせることが確認できた。 これらの検討工数を実車の実験で行った場合と比較すると,モデルを活用することで最大で約90%の工数を削減できることが分かった。BEVでは,バッテリーの充電between Experiment and Simulation 一方で低外気温時には,4.3節で紹介したように,低温でのバッテリーからの高出力に伴い電圧降下が顕著となり,航続距離の低下のリスクがある。また,暖房用ヒーターの出力の低下により,空調快適性の悪化も想定され,電圧降下が所定の範囲内に抑えられることの確認が求められる。5.2 1D車両全体モデルの妥当性検証 5.1節より,モデルでの電駆コンポーネントの温度とバッテリーの電圧挙動の予測が求められるため,第4章で紹介した予測精度の向上技術を取り入れた1D車両全体モデル内での,これらの予測精度の妥当性を検証した。Fig. 16に結果を示す。モーターコイル温度,バッテリー温度,バッテリー電圧について,黒線の実測に対して,改善技術の実装前(赤線)は再現性が低かったが,改善後(青線)は最大誤差がそれぞれ従来比で約26%,65%,61%改善し,再現性の向上が確認できた。また今回は,空調快適性との両立検討によりキャビンの温度の予測も必要なため,実測との比較を行い,誤差が平均で約3%と精度よく再現可能なことを確認した。なお,モーター駆動力についても高精度で予測できており,車両走行の再現性も良好である。

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