マツダ技報 2022 No.39
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―215―3. 工程集約の課題と取り組み3.1 プレス・車体領域の工程集約 生産効率向上のため,プレス・車体領域において工程の廃止や集約に取り組んだ。パッチワーク構造は,前章のFig. 4で述べたように補強部品を材料段階で本体と一体化し,それをホットスタンプ成形する。この構造を採用し,車体領域の溶接工程をプレス領域に集約することにより,通常なら4工程で成形する補強部品のプレス工程を完全に廃止した。また,Fig. 7に示すように一般的に後工程でレーザーカットしている製品のトリムやピアスをホットスタンプ工程に取り込み,Bピラーレインで完全レーザーカットレスを目指した。次にパッチワーク構造採用とレーザーカットレスの工程集約における具体的な内容を説明する。Fig. 7 Process Integration of Hot Stamping3.2 工程集約におけるパッチワークの課題と取り組み 製品の性能確保と軽量化を達成し,工程集約を実現できるパッチワーク構造の採用には工程設計やCAE解析手法に課題があった。 材料本体と補強部品をスポット溶接した後にホットスタンプ加工するため,成形時の板ズレ方向においてスポット溶接部にズレが発生する(Fig. 8-a)。これではねらいの溶接強度を得ることができず,衝突性能等を満足することができない。よって,スポット溶接部のズレを抑制することが工程設計時の課題であった。これに対しては性能を担保し,生産性を満足する適切なスポット溶接位置を開発部門との共創により決定した。成形で材料が引っ張られて溶接部に高応力が掛かる箇所を見極めることに加え,周りを変形させて溶接部への応力自体を減らす形状を織り込んだ。これらの取組みにより,スポット溶接部のズレを抑制した(Fig. 8-b)。Fig. 4 Patched Hot Formed SteelFig. 5 Minimization of Reinforcing Partsa)Hardness distribution of nuggetb)Cross tensile strength of spot weldsFig. 6 Prevent of Heat-a■ected Softening Zone 更に,パッチワーク構造のスポット溶接部については強度向上で性能に貢献した。一般的に,溶接する際の入熱によりFig. 6-aのような材料が部分的に軟化する現象が発生する(HAZ軟化)。しかし,ホットスタンプ加工による再焼入れで組織が均一に変化し,HAZ軟化がリセットされる。そのためパッチワーク溶接部の硬度は均一となり,強度が向上した(Fig. 6-b)。 下段部のテーラード構造は,製品の上側と下側で強度レベルや板厚の異なる材料をレーザー溶接で繋いだテーラードウェルドブランクを用いたものである。これにより,衝突時におけるエネルギー吸収のための変形を制御した。 これらパッチワークとテーラード構造を採用することで,ホットスタンプのBピラーレインでは衝突性能を向上しつつ,従来構造比34%の軽量化を達成した。実際の量産化に向けては「工程集約による生産効率向上」と「直水冷方式採用による生産タクト向上」に重点を置いて,ホットスタンプの高効率化に取り組んできた。次章以降でこれらの課題と取り組みについて紹介する。

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