マツダ技報 2022 No.39
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 1つ目は金型内での材料の位置決め性を向上させることである。金型での切断加工を減らすために,材料の段階で事前に切断しておくが,成形時にズレが生じると製品の寸法精度を満足できない。このズレを抑制するために位置決めを確実に行う必要がある。具体的には製品形状内に設けた穴に対して,金型側にはピンを設定して位置決めを行った。しかし,ホットスタンプの場合は材料の熱膨張と収縮により穴径及び穴ピッチが常に変化する。更に,成形時に位置決め穴とピンが接触することにより穴変形(メクレ)を発生させてしまうと,赤熱したパネルが接触するためピンへのダメージが大きい。これらを―216― Fig. 12 Cooling Method of Hot StampingFig. 11 Structural Analysis Results of Die4. 直水冷方式採用の課題と取組み4.1 ホットスタンプの生産タクト 従来ホットスタンプ工法の課題であった生産タクトを向上するには,焼入れ冷却時間の短縮が鍵となる。パッチワーク構造の採用により,総板厚が厚くなるため冷却時間が長くなり,更なる生産タクトの悪化が想定される。そこでマツダでは,冷却性能を上げるため従来の型冷却方式ではなく直水冷方式(3)を適用すべく技術開発を行ってきた。型冷却方式とはFig. 12-aに示すように製品を上下金型で挟み込んで抜熱する方法で,金型冷却用配管を型内に設定している。これに対して直水冷方式は直接製品に水を掛けて冷却する方法で,金型の形状面には冷却水の通り道(以下,流路)を設定している(Fig. 12-b)。この方式を採用することにより,型冷却では冷え残っていたパッチワーク部についても時間を大幅に短縮して冷却できるため,生産性は従来工法比4倍以上の高効率を達成した(Fig. 12-a, b)。a)Shear displacement(a) Formingb)Normal state(b)Forming+Trim&PierceFig. 10 Development of Hot Stamping Methodsa)Die quenching processb) Water direct quenching processFig. 8 Spot WeldingFig. 9 Simulation of Patched Hot Formed Steel3.3 工程集約した金型構造の課題と取り組み レーザーカットレス実現に向けた課題は,成形工程とトリム・ピアス工程を集約した金型構造を実現することである。ホットスタンプ型では成形工程に加え,製品及び金型を冷却するための複雑な冷却水用配管などを金型内部に設定する必要がある。更にトリム・ピアス工程も1型に集約することで,レイアウトの成立性に加え,金型を破損させないための強度・剛性確保を両立する金型設計の難易度は大幅に上がった(Fig. 10)。そこで,主に2つのアプローチで金型構造を成立させた。 また,材料が2枚重なったパッチワーク状態で成形する際の製品のワレやしわ,外郭ラインの寸法精度,パッチワークスポット溶接部の位置精度の評価方法についても検討した。CO2削減の観点から,実機を製作してのトライ&エラーではなくCAE解析を活用した机上評価は必須である。そこで,解析モデルや解析条件の検討を行い実際の成形をCAE解析に置き換える方法を確立することで,量産準備における各項目の評価を実施した(Fig. 9)。考慮し,製品形状及び金型構造で対策を講じた。 2つ目は金型剛性解析を活用した検討である。冷間プレスの金型設計においてはこれまで積極的に工程を短縮しており,型強度等に懸念がある場合,CAE解析を行って金型強度を評価していた。ホットスタンプの金型設計では,更に成形解析の結果を用いた連成解析を行い(Fig. 11),金型の強度・剛性不足箇所を漏れなく抽出した。この結果に対し,構成部品や金型材質の選定など金型構造を見直した。 これらのアプローチにより工程集約したホットスタンプ型の構造を成立させ,完全レーザーカットレスを実現した。

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