マツダ技報 2022 No.39
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―217―(a)1st shot (b)40th shot (a)Actual flowrate Fig. 16 Flow Velocity by Fluid AnalysisFountain hole (b)Analysis flowrate Fig. 14 Comparison of FlowrateFig. 15 Flow Path LayoutFlow path 4.2 直水冷方式採用の課題 ホットスタンプにおける冷却の課題はパネルを均一に急速冷却することであり,これが不均一になると製品の強度低下と寸法精度の悪化を招いてしまう。ラージ商品群のBピラーレインは,性能向上のためにパッチワークとテーラード構造を採用しており,同一部品内で板厚の異なる箇所が混在する。これが不均一な冷却の原因となるため,パネルのもつ熱量が板厚によって異なることを考慮した流路設計が必要となる。更に,連続生産すると金型温度が上昇し(Fig. 13),冷却が不均一な場合と同様の影響を製品に及ぼす。そのため,流路設計では製品だけでなく金型も冷却し, 温度上昇を抑制することが求められる。Fig. 13 Rise in Die Temperature by Production4.3 直水冷方式採用の課題に対する取り組み 4.2で述べた冷却課題の達成と,冷却性能を机上で評価して保証することを目指し,流体解析技術の構築に着手した。流路設計にあたっての冷却の基本的な考え方は,一般式ニュートンの冷却法則(1)にあるように熱量Qは,熱間パネル温度Tpと冷却水温度Twの差に比例するというものである。Q=Sh (Tp-Tw) (1) このとき,熱伝達率hと熱間パネルと冷却水の接触面積Sの積が比例定数となる。ここで,熱伝達率に影響する冷却水の流速に着目し,机上での流速再現に取り組んだ。流速が遅い場合,長時間に及び熱間パネルと冷却水の間に蒸気の層が生じて冷却を阻害する(ライデンフロスト現象)。この影響を極力小さくするためには流速を一定値以上確保した上で,均一冷却を行うことが必要と考えた。 まず,実際の金型の型締め状態における冷却水の流れを可視化するため,製品を透明パネルに置き換えて金型に押し当て,冷間状態を模擬した流速の測定を試みた。水の中に粒子を添加し,時間ごとの粒子の挙動を測定することで流れを可視化した。この測定結果を基に実機と流体解析結果の合わせ込みを実施し,その過程においてメッシュサイズや壁面抵抗の影響を考慮した。これにより,流速が速い箇所と遅い箇所の傾向を机上で見極めることが可能となった(Fig. 14)。 この流体解析技術を用いて冷却を制御するための検討を行い,流路レイアウトなどを改良した。流路内で水がぶつかり合うと流速が遅くなり,流速差が発生する。そこで,流速を妨げない流路レイアウトのパターンをいくつか構築した(Fig. 15)。パッチワークやテーラード構造の採用で板厚が異なる箇所については,それぞれに有効なレイアウトパターンを組み合わせ,更に流路間ピッチを最適化し,課題であった均一な冷却を達成した(Fig.16)。 更に,連続生産時の製品強度と寸法精度を保証するため,金型表層部に仕込んだ熱電対とサーモカメラで実際の金型温度を測定し,ねらいの温度以下で生産できることを確認した。 上記技術を用いて関連部門と共創し,金型設計前の製品形状検討段階において机上で均一に急速冷却するための評価を行った。そしてこの流路設計を量産金型に織り込むことで,ラージ商品群のBピラーレインに求められる製品強度と寸法精度を実現した。5. おわりに 人馬一体と衝突安全性をより高い次元で両立した車をお客様にお届けするため,高効率ホットスタンプ加工技術の開発を行ってきた。この技術を織り込んだ製品をラージ商品群で採用できたのは,生産技術部門だけでな

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