マツダ技報 2022 No.39
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⎞⎠⎟*=−1―220―−1 (a)Original structureFig. 2 Result of U* Analysis in Simple Frame(a)Boundary condition(b)Cross-section(b)Restrained structureFig. 1 U* Analysis(6)U′UU発している。現在,対話型設計支援技術によりボトルネックの発見が可能になっており,効果的に構造対策するためには,その要因を探り性能向上に寄与する部位を特定することが必要である。これまで,軽量化のボトルネックとなる性能は,例えば,側面衝突,NVH,乗り心地に係る固有値(共振周波数)で,更に操縦安定性に係る自動車の剛性性能であることが分かっている(4)。衝突性能については,材料の高強度化,フレーム断面の多断面化(5)など,軽量化の対策構造が数多く提案されている。本論文では,構造対策が難しく,かつNVH,固有値に対しても寄与のある車体剛性性能を対象にする。 質量効率の高い剛性性能を実現するためには,車体構造全体が無駄なく機能している状態が望ましいと考えている。これに対し,歪エネルギーの変化から内部の構造状態を把握する荷重伝達指標(以下,U*)(6)(7)が提案されている。しかし,車体構造は多層構造であるなど構造が複雑となっており,複雑構造への適用において,構造内部まで含めたエネルギー状態を可視化できる分析手法の開発が課題であった。 そこで,U*値の1.0から0.0を十数個~数十個の領域に均等分割し,1.0(入力荷重に対して歪エネルギー変化が大きい領域)から,0.0(入力荷重に対して歪エネルギー変化が小さい領域)へ動的に可視化することでエネルギーの流れを疑似的に表現する可視化分析手法を開発した。これにより,車体全体のエネルギー流れを俯瞰でき,かつ特定のU*値の領域に着目することにより,性能向上に寄与する部位を効率的に発見できる。2. 構造内部のエネルギー流れを可視化する技術2.1 従来手法とその問題点 U*解析により算出されるU*値は,各節点に拘束を負荷し,拘束有無の歪エネルギー変化から疑似的な剛性変化量を算出するものである。Fig. 1のような単純な系において,荷重負荷部の点A,固定部の点B,また任意の点Cを考える。Fig. 1(a)はオリジナル構造で,Fig. 1(b)は,点Cに拘束を付加したときのものである。点Aに強制変位を与えたときに系(a),(b)の内部に蓄えられる歪エネルギーをそれぞれU, U′ とすると,U*値は点Cの拘束有無の歪エネルギーから式(1)のように算出され,固定点Bで0,荷重負荷点Aで1となる。仮に,任意の点Cが剛性に寄与する点の場合,強制変位させるために必要な力が大きくなりU′ の増加に伴いU*値も大きくなる。このようにU*値から入力荷重に対して寄与する部位を特定できる。(1)⎛⎝⎜ U*解析の有効性検証のため,Fig. 2に示す四角断面の中空フレームを用いてU*解析を実施した。境界条件は,Fig. 2(a)に示すように長手方向の端点の一方を6自由度完全固定し,もう片方の端点に軸中心まわりのねじり荷重を与えた条件である。なお,U*解析は強制変位を付与する必要があるため,実際には,ねじり中心から半径方向に伸ばした剛体要素の端点に強制変位を与えている。Fig. 2(b)は,AA断面におけるU*分布を示しており,稜線部が平面部と比較してU*値が高くなっていることが分かる。理論上,ねじり剛性は,横弾性係数とねじり係数の積で表され,ねじり係数は,ねじり中心軸からの距離に依存し,距離が遠くなるほど高くなり,中心軸から遠い距離にある稜線部が高いU*値を示したU*解析の結果と一致する結果である。この結果から,U*値を用いることにより,ある入力荷重に対する各部位の寄与を算出でき,本モデルにおいては,稜線部に荷重伝達すると考えられる。つまり荷重伝達経路の予測には,Fig. 2(a)の α 部のような山部を見つけることが重要になる。なお,本論文では,U*値は,内部の歪エネルギー変化から算出されることから,荷重伝達をエネルギー流れと定義し呼称する。 しかし,数百点数もある自動車車体構造においては,フレーム部が多層,多角構造(Fig. 3)であるなど構造が複雑で,U*解析結果をそのままコンタ表示するだけではU*値の山部を正確に判断できず,そこからエネルギー流れを予測するのは困難である。よって,複雑な車体構造においてもエネルギー流れを予測可能な可視化分析手法の開発が課題である。

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