マツダ技報 2022 No.39
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(3)メカニズム推定 以上の事実から,欠陥発生メカニズムを以下のように推定した(Fig. 9)。2枚の鋼板被着体で挟まった接着層は,加熱硬化中に時間とともに流出する。これによって室温時には上板の端面に密着していた接着はみ出し部が,上板端面から離れる方向へ流動する。流動の構造要因は,スポット溶接ピッチと板厚で決まる鋼板のたわみに起因した弾性力である。一方,材料の要因は,発泡による見かけ体積の増加である。これらの要因で流動してくるときに,昇温過程で,はみ出し部の貯蔵弾性が高いとはみ出しの形状が保持されたままとなり溝欠陥を形成すると考える。―233―3. 性能検証Adhesion-fillet bolt Aluminum die-cast plate Al die-cast plate Die-Cast Plate and GA Steel PlateGA steel plate 10mm (a)Bolt only (b)Bolt with developed adhesive(c)Bolt with conventional adhesiveNo rust existed at all area White rust existed on lapped line White rust came to appear nearby adhesion-fillet 3.1 耐食性 開発した接着剤を用いて,GA鋼板どうしを接合し電着塗装を施した試験片にて,CCTによる腐食の促進試験を90サイクル行った。試験後,接合部を分解し接着剤と腐食生成物を全て除去後,腐食によって最も深く浸食された深さを計測し腐食深さとした。その結果,RSWのみの接合仕様に対して,RSWと開発接着剤の併用仕様では溝欠陥が発生せず,腐食深さが改善した。一方,RSWと従来の接着剤を併用した仕様は溝欠陥から発生した腐食が接合内部にまで進行し,腐食深さが悪化した(Fig. 10)。Fig. 10 Corrosion Depth at Joint of GA Steel Plates また,アルミダイカスト板とGA鋼板を接合し電着塗装した試験片において,ボルトと開発した接着剤を併用した接合仕様は,ボルトのみの接合仕様やボルトと従来の接着剤の併用仕様に対して,外観錆に優れ,ガルバニック腐食へも効果があることを確認した(Fig. 11)。Fig. 11 Cosmetic Corrosion at Joint of Aluminum Fig. 8 Storage Modulus of Adhesive at 90℃ (gap0.5mm, parallel plate diameter 25mm)Fig. 9 Crevasse Defect Mechanism2.3 材料開発 腐食抑制期間と腐食進展速度の両指標と相関をもつ溝欠陥を抑制するため,解明したメカニズムから以下2つの材料要件を導出した。それらを基に,最低複素粘度の適正化,吸湿発泡の抑制を配合物で具体化する接着剤開発を行った。(1)最低複素粘度の要件 複数の接着剤を用いて,加熱硬化過程での最低複素粘度と接着欠陥との関係を把握した結果,温間中最低複素粘度が200Pa・sを下回ると溝欠陥は発生せず,はみだしは上板から下板へなだらかに密着する形状となることを確認した(7)。(2)吸湿発泡の要件 車体生産工程での搬送・仮保管の観点から,可能性がある未硬化放置日数時でも溝欠陥を抑制できる,発泡体積の増加量を特定した。 なお,最低複素粘度を下げた副次効果として,溝欠陥以外の複数の欠陥形態を耐食性が有利な方向へ導くことも確認した。具体的には,接着接合部の隙間が未硬化時に変動すると形成する樹枝模様の空隙欠陥の起伏をなだらかにし(5),また,RSW時の中ちりによる接着貫通穴を狭める効果を示した。

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