マツダ技報 2022 No.39
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➁ NMC811使用時のモジュール安全構造の検討 今回想定したモジュールにおいて,セルの正極活物質にNMC811を用いた場合,セル1釘刺しから730s後に隣接するセル2で熱暴走が生じてしまうというシミュ―239―3.3 モジュール内の熱連鎖シミュレーション結果➀ 正極活物質種の違いによる熱連鎖挙動変化の解析 Fig. 8にモジュール内セルの正極活物質がNMC532,NMC622,NMC811それぞれの場合におけるモジュール熱連鎖シミュレーションの結果より得られた各セルの表面温度の時間変化を示す。正極活物質がNMC532,NMC622の場合は釘刺しセルであるセル1は熱暴走を起こし230℃程度まで温度上昇しているものの,隣接するセル2の温度上昇は140℃程度で留まっており,更に隣のセル3においては50℃程度の温度上昇に留まっている。一方で正極活物質がNMC811の場合は,セル1の温度上昇が250℃に高まっており,更に隣接するセル2においてもセル1釘刺し後の730sの時点で250℃近くまで温度が上昇しており,明確な熱連鎖挙動が見られる。これはFig. 6のDSC測定結果にて,NMC532,NMC622に比べ,NMC811は発熱量が大きいことによるもので,NMC811の場合,セル1で発生した熱がセル2に伝わる量も大きくなり,セル2においても正極,負極の材料熱分解反応の開始温度以上となり熱暴走が発生する。5401010Fig. 8 Simulation Results of Module Thermal Propagation (a) NMC532 Cell (b) NMC622 Cell Fig. 7 Simulation Results of Cell Nail Penetration (a) 3D Simulation (b) 0D Simulation (c) 1D SimulationTable 4 Simulation Di■erence and Time of Cell Nail Di■erence [%]Simulation time [s]Thermal Conduction model3D model0D model1D modelPenetration1.7565.5 (c) NMC811 Cell果であった。次に0次元モデルでは,計算所要時間が僅か10sと計算が高速である一方,予実差は56%と大きく精度は低い結果であった。これに対し1次元モデルでは,計算所要時間は0次元モデルと同様の10sと高速で,なおかつ予実差が5.5%と精度の高い計算結果が得られた。また1次元モデルは,負極活物質種が異なるセルA,セルBいずれにおいても実機試験結果に近い温度変化を予測できており,電極活物質が異なる条件においても対応可能なモデルであることが確認できた。1次元モデルで高速かつ高精度な計算が可能となったのは,電極体を必要最小限に分割したことで,釘からセルへのジュール熱の熱伝導の計算を,計算負荷を高めることなく精密に実行できるようになったためであると考えられる。

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