マツダ技報 2022 No.39
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―25―4.3 大排気量での摩擦損失低減,サーマルマネージ 新型では従来型からの筒内最高燃焼圧を低く抑えた低Pmax燃焼コンセプトの踏襲に加えて,スチールピストンと可変容量オイルポンプの採用,更には6気筒化によるバランスシャフトの廃止などにより摩擦損失の低減を図った。これにより大排気量化で通常は不利になる摩擦損失をFig. 13左図に示すように従来型から改善している(5)。スチール製ピストンはアルミ製シリンダーブロックとの線膨張係数の違いから実用温度帯でのクリアランスを十分に確保しつつ,小型のスカートを採用して摩擦面積を低減した。可変容量オイルポンプは各部品が必要とする要求油圧を明確にし,WLTCモードのような実用的な走行では各部品が必要とするだけの油圧を確保することで駆動ロスを低減し,高油水温の高負荷時にはアルミ製よりも温度が上がり易いスチールピストンを十分に冷却するためのオイルジェット流量を確保できる仕様としている。またFig. 13右図に示すように従来よりもせん断粘度を下げつつ,油膜強度や耐酸化性を向上した新開発の0W20エンジンオイルにより更なる摩擦抵抗の低減を図っている。 サーマルマネージメントとして,筒内で発生した熱量を有効に活用して摩擦損失の大きい箇所を優先的に暖機するシステムを採用した。そのエンジン冷却水回路図をFig. 14に示す。摩擦損失が最も大きいピストンとシリンダーライナー部に対して,シリンダライナー壁温を最優先で暖機する。ウォータージャケットへの熱移動を低減するために断Fig. 10 Air Condition and Pumping Loss CharacteristicFig. 11 Engine Torque ResponseFig. 12 Exhaust Sys. Appearanceメント大幅改善を実現すべく,大排気量化を活用した最適空気マネージメントシステムを選定した。具体的には,従来型がワイドレンジ過給性能に特化した2ステージターボチャージャー+HPEGRを採用しているのに対し,新型では排気量による空気量アップと低速重視の過給システムを組み合わせ,シングル可変ジオメトリーターボチャージャー(以下,VGターボチャージャー)+HP/LPEGRに変更した。VGターボチャージャーには従来型2.2Lの大型タービンに近い容量の新世代タービンを採用し,VGベーンとHP/LPEGRをコントロールするアクチュエーターをドライバー加速要求に応じて最適制御することで,高効率過給と高応答の両立を狙った。これによりFig. 10に示すように筒内吸入空気量増加に合わせてEGRを増量し,大幅なNOx低減を達成しながらも従来型並みのポンピングロスに抑制した。また,Fig. 11に示すように加速要求が高まるとタービン流入量と膨張比を増大させることで過給を瞬時に立ち上げ,高応答なエンジントルク特性による加速レスポンスの大幅向上を実現した。 一方で,上述の大排気量化による筒内吸入空気量増加は排気ガス温度低下につながり,排気浄化システムであるDOC (Diesel Oxidation Catalyst) やDPF (Diesel Particulate Filter) の機能低下を招いてしまう問題が生じる。新型では,Fig. 12に示すように,シングルターボチャージャー化や排気浄化システムとの締結構造小型化,及びDOC前の排気管鋼鈑を一体型化するなど,徹底した熱容量低減を実施した。加えて,放熱量低減策として放熱部位全体の遮熱構造強化や走行風に伴うエンジンルーム内風流れの最適化実施により,従来型同等以上の排気昇温(保温)性能を達成した。

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