マツダ技報 2022 No.39
40/275

rts/3mmytitnauQnoitcenI l jeuF 3.2 スチールピストンの開発(1)スチール製ピストンの採用 新型エンジンでは,燃費改善を目的にスチール製のピストンを採用した。改善の内訳は機械抵抗損失と未燃&冷却損失の低減による。Fig. 11に新旧モデルのピストン外観を示す。各損失の低減メカニズムについて以下に説明する。 Fig. 10に目標油圧MAPを示す。低油圧,中間油圧,高油圧の大きく3つの目標油圧を設定しており高負荷ほど信頼性に機能配分している。一方で常用回転域は低油圧制御にして常時噴射するサブジェットによりピストン信頼性を確保しつつ,ピストン表面温度は高くして冷却損失や未燃損失,オイルポンプの機械抵抗を低減させて燃費性能に機能配分した。ピストンに関する詳細については後述する。 また,登坂走行や高速走行により油温が高くなると,低油圧制御領域を縮小し,中間油圧制御の領域を拡大させた。それにより,負荷が低くてもメインジェットを噴射させてピストン冷却に必要な最小限の油圧となるよう制御した。このように運転シーンごとに可変容量オイルポンプによる緻密な油圧制御を行い,性能と信頼性を高次元で両立させた。―31―10002000HigherOil TemperatureVery HighOil Temperature=No Low Oil Pressure area 30004000F/L= Full LoadMediumOilPressure(Main/Sub-Jet)High Oil Pressure (Main/Sub-Jet)Oil Pressure(Sub-Jet)LowEngine SpeedrpmFig. 8 Oil CircuitFig. 9 Oil Pump Capacity vs TorqueFig. 11 Previous-Aluminum Piston (Left) a. 機械抵抗損失の低減 スチールピストンによる機械抵抗低減のメカニズムはスカートクリアランスの最適化によるものである。アルミピストンの場合,一定以上の温度域で運転すると,熱膨張によりシリンダボア径<ピストンスカート径となる。このときスカート部分はシリンダーに対し緊縛された状態となり,機械抵抗を増大させる。一方でスチールピストンの場合は線膨張係数が小さいため,極冷間の一部の条件を除いてスカートクリアランスを保つことができ,機械抵抗が低減できる。機械抵抗損失低減の効果でWLTC国内モードの場合は1.8%の燃費改善効果を得ている。b. 未燃&冷却損失の低減 スチールピストンはアルミピストンと比較して熱伝導率が低く,耐熱性が高い。そのため燃焼室表面温度を高くすることができ,燃え残りによる未燃損失を低減することができる。また,材料強度が高いことによりTOPランド部(ピストン上面からTOPリング溝までの領域)の高さを小さく抑えることができ,クレビス部(TOPランドとボアの隙間の細長い空間で,燃焼火炎が届きにくい領域)の体積が小さくできることも未燃損失の低減に効果がある。また燃焼室表面の温度を高くして燃焼ガスとの温度差が小さくなることにより壁面熱流束を低減して,Fig. 10 Target Oil Pressure MapNew-Steel Piston (Right)化に伴うクランクシャフト軸受への供給油量増加により,従来比250%の供給流量が必要となった。増加した要求流量を確保し,実用低負荷領域におけるエミッションや燃費をより向上させるため,可変容量オイルポンプで緻密に制御することで,現行4気筒ディーゼルエンジン同等以下のオイルポンプ駆動力で各種要求を実現した(Fig. 9)。

元のページ  ../index.html#40

このブックを見る