マツダ技報 2022 No.39
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―32―Fig. 12 MBD Environment and Function Distribution for both Performance and Piston ReliabilityFig. 13 Comparison of Piston Temperature Results with 3DFEM CAE Model in Maximum Power Operating b. スカート構造設計 スカート構造の設計に際しては,アルミピストンと異なる熱膨張特性とヤング率を考慮した。熱膨張に関しては,シリンダー素材のアルミと比較して線膨張係数が小さいため,シリンダー(アルミ)・ピストン(スチール)ともに冷えている時にはスカート部のクリアランスが小さくなり,温間では逆にクリアランスが大きくなる特性をもつ。またヤング率はアルミの2倍強であり,アルミピストンと同形状で設計した場合は剛性が高くなりすぎる。従って,下記条件を含むあらゆる使用環境で満足するように,スカート剛性,スカートプロファイルを最適設計した。 冷間時は,極寒環境における始動後からエンジンが温まるまでの限定的な期間でのみクリアランスが極小の緊縛状態となる。このとき緊縛力(Fig. 14の➀)が発生し,スカートの剛性が高いと荷重が過大となり焼付きを生じる懸念があるため,適切な剛性にする必要がある。一方で温間時は,特に長期間の運転による劣化でシリンダーボアが拡大(クリアランス増)する時,ピストンがピストンピンを中心に回転する2次運動が増大する。このピストンの傾きが過剰である場合(Fig. 14の➁),スカートの上下端部のエッジが接触し,スラップ音の発生,もしくは焼付きや異常摩耗に至るリスクが生じる。そのため,温間時のボア拡大量は,燃焼入熱分布,冷却の抜熱分布をモデル化し,構造体のFEMとの連携で予測した。劣化拡大量の実験式をベースにしたモデル化は,あらゆる使用環境(劣化含む)を考慮した最適設計に寄与した。 また焼付きや異音の原因となることから,ピストンとシリンダーボアの接触界面には適度な油膜が必要である。そのため,常に必要な油量が届けられるように油圧制御を行った。Conditions冷却損失を低減できる。未燃損失と冷却損失の低減分を合わせ,WLTC国内モードの場合は0.4%の燃費改善効果を得ている。(2)スチールピストン採用における技術課題への対応 スチールピストンの採用に際しては,メリットがある一方でいくつかの点で配慮を要する技術課題があった。以下よりその内容と新型エンジンのスチールピストンで実施した対策について解説する。a. 温度設計 既述のように,低熱伝導の特性をもつスチールピストンでは局所的に温度が超高温になる信頼性懸念があるため,燃費と信頼性を両立するためにはピストン温度を精度良くモデルで予測し,ピストン冷却のための機能をハードと制御へ最適に配分する設計が重要となる。Fig. 12にそのプロセスのフロー図を示す。本開発ではピストン熱流れに関する入熱と放熱のモデルと予実検証に用いる測温精度を向上させた。入熱は入熱タイミングの正確な把握のため,ピストンの上死点を正しく管理した上で行う高精度な筒内指圧計測とマツダ独自の熱勘定解析(6)によりピストンへの入熱量予測精度を向上した。ピストン入熱分布については噴霧燃焼に関する3DCFDにより詳細に予測した。放熱はオイルジェット流量について往復運動しているピストンのクーリングチャンネル内に入るオイルジェット有効流量を定義することで予測精度を向上した。測温については計測前にCTスキャンにてピストンに手加工で埋めた測温センサーの壁面からの距離を正確に把握して,CAEと同じ座標位置で予実比較できるようにした。 この取り組みで精度を向上させたモデルによる温度予測を用いて,Fig. 13に示すようにピストン冷却のための機能強化を新型エンジンのスチールピストン形状に対して行った。リング溝部温度はオイル炭化抑制のためクーリングチャンネルの形状を最適化し,メインオイルジェット流量増加と合わせて従来型のアルミピストンと同じ信頼性基準温度に収まるように冷却性を高めた。ピンボス温度についても従来型と同じ基準温度に収まるようにピンボスからトップまでのコンプレッションハイトと後述のサブオイルジェット流量を最適に設計した。一方,ピストンリップ温度に関しては材料をアルミからスチールにすることによる熱伝導率低下と耐熱性向上によって従来型から新型で大幅に上昇させている。

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