マツダ技報 2022 No.39
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 4.2 クラッチ冷却 登坂等の高負荷発進では半クラッチを継続しても摩擦材の耐久性を確保できるよう,適切な潤滑冷却性能が求められる。油路の絞りの選択切り替え機構や電動オイルポンプによる潤滑ブースト機能を設け,必要時に必要量の潤滑ができるシステムを備えることでクラッチ冷却性能と燃費性能の両立を図った。―59―Motor Housing Value deliveredQuicklyengage/disengageSmoothlySynchronizetransferE■cientlyEnhancedfunctionAdopted technologyHydraulic characteristicsHydraulic feedback controlFriction Inertial massDirect connection(Without torque converter)RatioGear ratio optimizationVibration dampingResonance frequency controlFluid lossVariable lubrication / reduction of oil amountMechanical lossGear loss / sliding loss reductionHeat lossThermal managementGearbox 4.1 ショック・振動の低減技術 応答遅れなく滑らかな発進挙動が得られるよう,流体伝達並みの微小トルクを伝達できる構造を採用した。従来クラッチ構造では,微小トルク伝達をねらって押し付け油圧を下げると,クラッチが解放位置に戻りトルク伝達そのものができなくなるという課題があった。この課題解決の施策として,クラッチプレート間の遊びを詰めた状態で保持可能なばね構造の採用,及び油圧制御の緻密な作り込みにより,トルク抜けを生じることなく微小なトルク伝達を可能とした(Fig. 7)。4. クラッチ発進5. 油圧フィードバック制御6. ギヤ比設定Fig. 5 AT Basic Functions and Technical ConceptFig. 6 Sectional View of New 8 Speed ATFig. 7 Launch Clutch Concept本機能に対して制御因子を明確にし,ATの各構成要素の技術進化のロードマップを具体化した(Fig. 5)。 通常のATは発進装置(トルコン)と変速機構を直列に配置するが,新型ATではこれらの機能を変速機構に集約することで,エンジンと変速機構の間に電駆対応スペースを創出した。変速機構を大型化させないために,8速化に必要な最小要素数(プラネタリギヤ4組,湿式多板クラッチ5組)での構成としつつ,発進機能を1つのクラッチに集約的に配分できるギヤトレインとすることで,クラッチ発進化に伴う制御・冷却システムの肥大も回避した(Fig. 6)。 究極の伝達効率とMTのようなダイレクト感を目指し,流体を介さないクラッチ発進方式を選択した。流体伝達はエンジン回転の吹きあがりや動力伝達の遅れのデメリットがある一方,ショック/振動を伝えにくく,発生した熱を効率よく放熱するというメリットもある。湿式多板クラッチをベースに以下のブレイクスルー技術を織り込むことで流体伝達のメリットを損なわずにMTのようなダイレクト感を実現した。 ショックを吸収するトルコンなしで優れた変速性能を実現するには,クラッチ油圧の精度・応答性を従来以上に高める必要があった。そこで,各クラッチに油圧センサーを設定し,油温や容積変化などの外乱影響をリアルタイムで油圧制御へ補正する機能をTCMに実装した。これにより,変速の進行状況ごとに変化する油圧要件を常時トレースできる緻密な制御が可能となった。 トルコンレスに伴い,これまでトルコンのトルク増幅で実現していたローンチ性能も担保しつつ,最高段位での巡行性能やドライバー意図に応じた加速度の変化,リズムの心地よさといった変速による自己主体感を追求し,理想を実現するためのギヤ比設定を行った。以下,詳述する。6.1 レシオレンジの拡大 駆動ユニットによらず求められる共通のパワートレイ

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