マツダ技報 2022 No.39
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―61― 篠塚 浩 本瓦 成人 9. NVH10. 開発・モノづくり進化11. おわりにFig. 11 Transmission Loss Torque Comparison@WLTC ModeFig. 12 Aluminum Press Drum/Dissimilar Material Joint 新型8ATのトルコンレス構造の実現においては,流体伝達による振動減衰が見込めないため,特に低回転領域でのエンジンの回転変動がトランスミッション内部に伝わることで発生する駆動系ねじり振動性能の成立性が重要な課題であった。 駆動系ねじり振動モードをコントロールする主な因子としては,ねじり剛性と回転部品のイナーシャの2つがある。ねじり剛性が低いほど,あるいはイナーシャが大きいほど高い振動減衰効果が期待できる一方,大イナーシャは重量増大の弊害を招く。今回の新型8ATでは,従来,エンジン/トランスミッション間に配置しているねじりダンパーに加え,モーターとトランスミッション間にも小型の低剛性ねじりダンパーを配置した。これにより最小限の追加イナーシャで振動モードを最適化でき,トランスミッションの軽量化とNVH性能の両立を実現した。 今回の新型8ATは,さまざまなタイプのエンジンと電駆システムへの対応が求められている。全ての組合せに対して個別最適で開発をすると膨大な開発期間が必要になることから,システムとしての固定要素と変動要素を定め,基本構造を同体質化するコモンアーキテクチャー構想を立てて効率的な開発を実現した。具体的にはプラネタリギヤ及び油圧制御システムを固定要素として,全てのATバリエーションに対して共通とした。他方,変動要素としては,エンジントルクによってダンパー容量及びクラッチ容量を2種類,電駆システムをモーターサイズ及びモーター有無で3種類,駆動システムとして2WD/4WDの2種類を設定した。システム間の差分に着目しモデルベースでの機能検証を充実させることで,時間とコストのかかる実機検証を最小化した。 また,理想のペダルワークスペースを実現する縦置き8ATとするために,大径長尺クラッチドラムの採用が必要となった。大径部品を多用する構造を採用するとイナーシャ増加による走行性能課題やNVH課題への対応が必要となる。今回,これらの課題を解決する手段として軽量なアルミ材を採用した。加えて,アルミプレス工法の採用により,省スペース,生産性向上を実現した(Fig. 12)。更に,異材(鉄)部品との塑性結合を選択することで,部品精度の向上を行いながら省スペースで8ATスケルトンを実現した。 今回の新型8ATは,究極の人馬一体性能の提供により,心と体の活性化を通じた豊かなカーライフをお楽しみいただけることを目指し開発を行った。これまで培ってきたモデルベース開発の考え方,プロセスを更に進化/深化させ,多数の開発部門の連携と協力によって商品化を実現した。今後,ビルディングブロック構想に基づき,本技術と電動化技術の更なる進化に挑戦し,引き続き全てのお客様に優れた環境・安全性能と走行性能をお届けしていく。■著 者■山本 真司上田 健輔 朝倉 浩之

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