マツダ技報 2022 No.39
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 3.5 Mazda intelligent Drive Select(Mi-Drive) CX60から採用する進化したMi-Driveでは,走行シーンに応じて「NORMAL」「SPORT」「OFFROAD」「TOWING」に「EV」を加えた5つのモードを設定した。ベースとなる「NORMAL」に対して,各走行モードそれぞれの特徴に合わせてAWDのトルク配分も最適化することで,走行条件が大きく異なるそれぞれのシーンで「人馬一体の走り」を実現した。(1)SPORT クルマの持てるダイナミクス性能のポテンシャルを最大限に引き出し,パワートレインの応答性を高めてより―65―Fig. 11 Gap in Rotation between Front and Rear3.4 前後トルク配分の後輪駆動ベースへの最適化 後輪駆動らしい旋回性とAWDらしい安定性を燃費への影響を最小化しながら実現するために,前述した前後ギヤ比差設定を前提として,制駆動力及びタイヤ荷重状態に応じてトルク配分を最適化した。タイヤ摩擦円内での走行においては,加減速に応じてトルク配分を緻密にコントロールすることでAWDとしての安定性を確保しながら,旋回時は前輪から後輪へトルク配分を変化させることでピッチ姿勢をコントロールし後輪駆動ベースの素直な操縦性を実現した。また,高速・高Gや低μ路など旋回時のタイヤ摩擦円を超えるようなシーンにおいては,従来のタイヤ前後スリップ検知によるスリップ制御に加え,オーバーステア・アンダーステアを検知して駆動配分をコントロールすることで車両挙動を安定化した(Fig. 12)。更に回生ブレーキ時には,回生協調ブレーキシステムと連携しフロントへトルク配分する制御によって車両安定性を確保するとともに,より多くのエネルギー回収を可能にした。Fig. 12 AWD Torque RatioFig. 13 AWD Control Systemク配分するほど安定性は上がるがアンダーステアが発生し旋回性は下がるため配分比を決めにくいことがあげられる。また,クラッチを介してトルクを伝達する電子制御多板クラッチ式のトルク配分は,構造上出力側が入力側より遅い回転数である必要があるため,旋回状態を含めてフロント軸側を遅く回す必要がある。クラッチの引き摺りロスなどの燃費影響を最小化しながら理想の車両挙動と安定性を実現するために,以下2点に注力した。① 前後ギヤ比差によるAWDトルク伝達の最大化② 前後トルク配分の後輪駆動ベースへの最適化3.3 前後ギヤ比差によるAWDトルク伝達の最大化 フロントデフ/トランスファのギヤ比の組み合わせにより,前後駆動系に微小な差回転を発生するギヤ比を設定した(Fig. 11)。これにより,常に前後差回転を発生させることで,フロントタイヤへすばやく・正確にねらいのトルクを伝達することが可能となり,必要最小限のトルク配分で車両安定性の向上を実現した。 前述のトルク配分を実現する制御システムをFig. 13に示す。AWD制御ロジックをパワートレインコントロールモジュール(PCM)内に配置することで,エンジン・モーターが発生する駆動トルク情報を素早く検知し,目標とする前後駆動トルク配分比を演算,AWDの多板クラッチユニットに対してトルク指示を行う。また,後述するMi-Driveやキネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)とも連携し,PCM内で統合的に車両運動目標を決定して各ユニットへ指示することで,理想的な車両挙動と安定性を実現した。

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