マツダ技報 2022 No.39
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―69―Fig. 1 Human Ability to Handle Tools Like Parts Own Body クルマにおいては,体の動きに同調した道具の動きを運転中のいかなる場面でも五感で常に把握できることを理想状態と定めた。これを車両全体で統合的に作りこむことでまるで「脳とクルマが直結」しているかのような感覚と,それによって誰もが大きなパワー/サイズのクルマを,手足のように操れるクルマ造りに挑戦した。2.1 操作に対するクルマの反応が素早くシンクロ 着目したのは,人からクルマへの力の流れである。理想状態は,下図(Fig. 2)に示すように,Input(操作)に対しOutput(応答)が,応答遅れは存在しながらも応答波形が相似していることと定義した。 クルマにおいては,人の操作と応答の間に多くの部品が介在している。それらの部品の剛性で,InputとOutputの関係が決まることから,その剛性配分に着目した。下図(Fig. 3)は,フリクションをもつ2つの部品(UNIT①②)で直列に構成されたモデルの応答を時間軸で示したものである。力の流れる方向に順に剛性を高めていくバランスが理想状態である。2. 技術コンセプト1. はじめにFig. 4 Input Transmission Order and Response Fig. 2 Ideal State of Input and OutputFig. 3 Ideal Sti■ness DistributionModification マツダは,「人間中心の開発哲学」に基づき,人の普遍的な能力を最大限活用できるクルマ造りを進化させてきた。新世代スモール商品群では,クルマの理想状態として人の歩行における「動的バランス保持能力」に着目し,乗員が運転または乗車している時であってもこの能力を最大に発揮することで,頭部を安定させ疲れにくく安心して移動できる,車両の特性を作り込んだ。今回の新世代ラージ商品群では,スモール商品群までに具現化してきたモノ造りを土台とし,人が道具を体の一部のように同化する「身体拡張能力」に着目した。人が身体拡張能力を発揮する状態とは,体の動きを予測し調整するための〈身体図式〉と呼ばれる脳内モデルに,道具の特性が組み込まれることで,人の意識が道具そのものではなく道具が扱おうとする対象に向かう状態である。 下記(Fig. 1)は,箸を道具とした時と,車を道具とした時の人の意識の動きを示す。 クルマの旋回時において考えると,人の操作(INPUT)は,ステアリングからフロントサスペンション,車体,リアサスペンションと順に伝わっていく。その結果として,ばね上運動を伴う平面運動が発生する。従来は,力に対する応答のみを追求しシステムごとに応答を高める設計をしていたが,今回CX60では,力の伝達の連続性に着目し,下図(Fig. 4)に示すように,各システムの応答を力の流れる方向に向かって,途切れることなく繋げるようにした。ポイントは,図中に示す2つである。①は,車両の初期応答を抑え整えるフロントサスペンションの技術。②は,リアサスペンションの応答を高めシンクロさせる技術である。それぞれ次項3.1と3.2で紹介する。

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