マツダ技報 2022 No.39
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(2)シート骨格の剛性向上 CX60では,フレームの剛性向上だけでなく,力の流れる方向に順に剛性を高めていくバランスに注目し,シートの土台となっている部品である「スライダー」と「ブラケット」の剛性向上も行った。CAEにより,シート骨格の剛性に感度の高い部品を抽出し,効率的にシート骨格の剛性を向上させた。その結果,下図(Fig. 15)のとおりフレーム上部の左右方向のバネ定数は,現行と比較し約2.5倍となった。―72―4. ダイナミクス性能の達成状況5. おわりにFig. 13 Seat StructureFig. 14 Transmission Pathways of SeatFig. 15 Rigidity of Seat FrameFig. 16 Dynamics Acheavement これらの部品の剛性が低いと,ボディーからシートへ伝達された力が,異なる方向へ逃げたり遅れて伝わり,車両から人へ正確な情報伝達が損なわれる。下図(Fig. 14の赤枠)に示すとおり,シート骨格の左右剛性(バネ定数)を強化し,入力に対して力の分散を抑制しリニアリティを高めた。 以上の技術を車両に投入することで,目指した,シャシーダイナミクス性能,あたかも「脳とクルマが直結しているかのような感覚」を従来プラットフォームから大幅に向上させた。下図(Fig. 16)は,その結果を示す。現行モデル比較で,操作に対するシンクロ度を示す「操作に対する車両挙動の一致度」が39%高まり,「凸路を乗り越えた時のドライバーの頭部の動き量」が34%減少した。 今回は,人が無意識にしている領域に踏み込み車との一体感を高めるという未知の開発に挑戦した。そして,人がどう感じるのかを突き詰めた結果,運転手だけでなく,後席の乗員までも一体となって楽しさを感じ,長距離を乗っても疲れないという新たな価値を実現した。これは,マツダ開発部門だけでは到底成しえるものではなく,生産技術部門,及び関係する多くの協力会社の方々と皆で成し得たものである。人の能力を活かす技術進化の余地は広く,理想状態の実現のために今後も愚直に研究を続けていく。

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