マツダ技報 2022 No.39
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 e-SKYACTIV PHEV搭載車では,AWDならではの安定した走りと,自然なブレーキペダル操作感を実現しつつ,従来よりも高い効率でエネルギー回収を行い,意のままに操れる車両ダイナミクス性能と環境性能の両立を目指した。(2) カップリング締結力の最適化による4輪同時ロック カップリングの締結力を強めていくと4輪が拘束され,1輪ロックが他の輪のロックも誘発し,4輪が同時にロックする懸念が高まる。そのため,トルク配分を前輪に伝達することと,カップリングの締結過多による4輪同時ロックを回避することを両立する必要がある。(3) カップリング締結力の最適化によるヨー減衰効果の また,カップリングの締結を強めていくと差動制限力が働き,旋回時に前後・内外輪の車輪速差がつきににくくなる。これにより,ヨー減衰効果が高まり,車両の“アンダーステア”傾向が強まる。そのため,前述の車両安定性を含め,カップリングによるトルク配分を最適化することが課題となる。―75―3. システム構成と課題3.1 損失エネルギーの回収とPTシステム構成 減速時のエネルギー損失は,摩擦ブレーキ損失,Powertrain(以下,PT)抵抗損失,走行抵抗損失に大別される。このうち走行抵抗損失以外の摩擦ブレーキ損失,PT抵抗損失が回生システムで回収可能なエネルギーである。e-SKYACTIV PHEVでは,モーターをエンジンとトランスミッションの間に配置しており,クラッチによりエンジンを切り離すことで,エンジンの抵抗損失を回収できるシステム構成となっている(Fig. 1)。Fig. 1 Schematic View of e-SKYACTIV PHEVFig. 2 Schematic View of Regenerative-Friction Brake 3.3 ダイナミクス性能の課題(1)制動配分の変化による後輪ロックの回避 Fig. 3に,摩擦ブレーキと後輪駆動での回生協調ブレーキそれぞれの実制動配分と理想制動配分(前後輪が同時にロックする制動配分)を示す。また,後輪駆動ベースのAWDにおいても,実制動配分は後輪寄りとなる。そのため,主に雪道やアイスバーンといった低ミュー路における制動では,後輪からタイヤがスリップすることで,スピン挙動を誘発する。CoordinationFig. 3 Braking Force Distribution また,CX60のAWDシステムは,後輪駆動をベースとしたi-ACTIV AWDで,電子制御多板クラッチ(以下,カップリング)を介して前輪に駆動力を伝達している。更に,前後のディファレンシャルギアの減速比に差をつけており,フロントの減速比を高速側に設定している。これにより,カップリングのクラッチに回転差を生じさせることで,トルク伝達の応答性を高め,シーンに応じたトルクコントロールを精度よく実現している。3.2 回生協調ブレーキシステム 回生協調ブレーキは,ドライバーがブレーキペダルを踏んだ時に,ジェネレーターによる回生ブレーキトルクと摩擦ブレーキトルクの2つで制動トルクを発生させるシステムである。 このシステムでは,回生ブレーキトルクが変動しても,摩擦ブレーキトルクを調整することで,車両全体の制動トルクを変動なく発生させることができる。また,従来の倍力装置を介してブレーキペダルから制動トルクを発生させるシステムではなく,ペダルからホイールブレーキまでがつながっていないブレーキ・バイ・ワイヤを採用している(Fig 2)。そのため,摩擦ブレーキトルクが変動しても,ブレーキペダルの操作感に変化がなく,安定して制動力を自然なブレーキペダル操作感で実現できる。の回避活用

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