マツダ技報 2022 No.39
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(2)机上予測モデルによる仕様決定 今回のタイヤスリップ検知制御では,新しいアプローチで閾値を設定した。具体的には,机上予測モデルを構築し,タイヤスリップを検出したい路面ミューにおけるカップリング差回転を算出した。カップリング差回転は,路面ミューだけでなく,車速やPTトルクによっても変動する。そのため,それらを変数とするマップとして検知閾値を設定している(Fig. 7)。従来は,さまざまな走行条件で計測を行い,そのときのタイヤスリップ量から仕様を決定してきた。しかし,この手法では,実車を使用したテストで多くの時間が必要となる。更に今回,回生協調ブレーキとAWDとの協調制御により,制御条件がより複雑化している。そこで,予測モデルにより閾値を決定し,実車では代表シーンのみを確認とすることで,開発リードタイムの大幅な短縮が可能となった。―76―4. 回生協調ブレーキ時のダイナミクス制御4.1 カップリング締結力のコントロール カップリング締結による旋回特性への影響を検証した。回生協調ブレーキを作動させながら旋回するシーンにおいて,カップリングの締結力を変えて検証を行った。Fig. 4は,pattern1から3の順でカップリング締結力を強め,ステアリング操舵角に対する車両のヨーレートの出方を示している。締結力の最も弱いpattern1では,操舵量に対してヨーレートが出過ぎておりスピン挙動となっている。Pattern3では,操舵量に対して,ある程度リニアにヨーレートを発生しているが,舵を切り込んでいくとpattern2に比べ,若干のアンダーステア傾向を示している。したがって,カップリングの締結力を最適化することで,安定した旋回特性を得られることが分かった。AWD協調制御を活かしたタイヤスリップ検知制御を開発した。i-ACTIV AWDは,前後のディファレンシャルギアにおいて減速比に差をつけることで,どこかにわずかな回転差が必ず生じる。この特性を利用して,4輪同時ロックが起こりやすい低ミュー路において,タイヤスリップを検知し,回生協調ブレーキを制限する機能を設けた。具体的には,Fig. 6に示すように,高ミュー路では,タイヤはほぼスリップせず,カップリングにおいて回転差(以下,カップリング差回転)が生じる。一方で,低ミュー路では,主駆動輪であるリアタイヤがスリップすることで,カップリング差回転が少なくなる。これらの結果を利用して,PTトルクとカップリング差回転の関係からタイヤスリップを判定する閾値を設定し,4輪同時ロックの回避が可能となった。Fig. 6 Rotation Di■erence on the High and Low Mu Fig. 4 Vehicle StabilityFig. 5 Coordinated Control of Coupling and Regenerative Brake Torque4.2 タイヤスリップ検知制御(1)制御ストラテジー i-ACTIV AWDのハード特性及び回生協調ブレーキとのRoad また,減速回生ブレーキ中には,モーター出力やギア変速などにより,トランスミッションのアウトプットトルクが変動する。そのため,前後ドライブシャフトのトルク変動を抑えるために,カップリングの締結力を制御し,前後のホイールトルクをコントロールする必要がある。そこで,コースティング及び回生実行時のPTトルクに対して,前後のトルク配分比が一定となるカップリング締結トルク制御を行った(Fig. 5)。

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