住田 英司 唐津 良平 富士田 拓也 (1) 森下ほか :MX30 EV MODELのモーターペダル開発,マツダ技報,No.38,pp.20-25(2021)(2) 岩宮眞一郎 : よくわかる最新音響の基本と仕組み,日本,秀和システム,pp.36-39,p.46,pp.88-89 (2014)■著 者■―82―4. おわりにFig. 14 Engine Sound while Accelerating3.2 歩行者の安全に配慮した接近通報音の技術(1)車両接近通報音 電動車(BEV,HEV,PHEVなど)は低速でのモーター走行時に走行音が低く,歩行者は車両の接近に気づきにくい。このため,2019年以降の電動車には,自動車の接近を歩行者に知らせるため車両接近通報装置(AVAS;以下,接近通報音)の装着が義務化された。この装置から発せられる前進音と後退音の音圧レベルと周波数は法規で規定されており,各社で音色の工夫をしている。(2)コンセプト CX60の接近通報音は,➀乗員が気にならず,➁歩行者が違和感なく気づきやすいこと,をコンセプトとした。このうち➁では歩行者の安全性を向上させるため,人の記憶にある音(=内燃車で聞いたことがある音)を用いることで,自動車の接近を違和感なく歩行者(車外の人)に知らせることを目指した。(3)前進音 前進では,歩行者が振り返らなくても「自動車」と気づいてもらう音を研究した。結果,EV車や内燃搭載車に共通する音として「タイヤ」が回転する時の音に着目するに至った。(4)後退音 後退では,運転者からの死角も多く,歩行者自身に気がついてもらうことで,安全確保ができると考えた。気づきやすい音として間欠音を取り入れ,音の発生時間の間隔は,心臓の鼓動の間隔で音を吹鳴することで,歩行者が平常心で行動できるようにした。(5)コンセプトの具体化 前進時のコンセプト実現のため,タイヤ起因の音をデータ化した。車速ごとの周波数特性を分析により,車速の変化に伴う周波数全体の音圧変化の中で,一部の帯域の周波数に変化に特徴があることを確認した。歩行者がタイヤ音と認識するには,車速に応じた周波数帯域ごとの変化を再現することが重要となる。つまり周波数を変化させる帯域とさせない帯域の音,これらを合成する参考文献毛利 正樹 宮東 孝光 三小田 哲也 けでなく,吸気から分岐したサウンドクリエータからの音も加え,踏み込むほどに変化を感じられ高揚感へつながるサウンドを実現した(Fig. 14)。制御を織り込み,音圧と周波数を法規要件に適合させながら意図した自然な前進時の音を構築することができた。 後退時のコンセプト実現のため,前述のタイヤの音に加え,加齢による聴力の衰えが少ない周波数帯域を選択した。更に,前述した時間間隔を加えることで,歩行者に気づいてもらえる音を作成した。具体的には,人が落ち着いている平常時の心拍を参考にすることで,歩行者に危機感を煽りすぎず,落ち着いて自動車から回避できる時間間隔とし,CX60はねらいどおりのコンセプトを実現できた。 以上,CX60の静粛性開発について紹介した。今後とも,お客様にマツダ車を選び続けていただくために,人間中心の考えの基,お客様に喜んでいただく指標の研究と,その実現に向けたNVH性能開発技術の更なる向上に取り組んでいく。服部 之総木下 晃村上 健太
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