マツダ技報 2022 No.39
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 X軸方向における運動エネルギー損失のグラフをFig. 3へ示す。このグラフは,モデルの前端の断面からモデル後方の運動エネルギーの減少がほぼ無くなった断面までの風流れの運動エネルギー損失を示す。MODEL Bでは,モデル後端以降で運動エネルギー損失が大きくなった。これは,後端上部の風が吹き下ろすことで後流渦が強まったと考えられる。―84―2.1 風流れ制御の考え方 これまでの研究(2)により,Cd値を低減するためには風流れの運動エネルギー損失の低減が重要であることが分かった。運動エネルギー損失を発生させる渦は,三つに大別できる。一つ目は車両表面から風が剥離することにより発生する“剥離渦”,二つ目は異なる流れが合流して発生する“混合渦”,三つ目は車両後方で上下左右それぞれの流れが合流して発生する“後流渦”である。車両周りの各部で生じるこれらの渦(Fig. 1)を抑制することで風流れの運動エネルギー損失を小さくできる。特に,混合渦と後流渦は,風流れが車両進行方向に対してなす角度である風向によって運動エネルギー損失が変化するため,風向の制御が重要となる。Fig. 1 Kinetic Energy Loss at Each Part of the Vehicle2)2.2 CX60の空力性能開発の課題 SUVにおいて車両周り全体で発生する運動エネルギー損失のうち,約3割が後流渦に起因するため(3),後流渦に着目し技術開発を行った。CX60ではスポーティーなSUVデザインコンセプトを実現するために,バックウィンドウが傾斜し,リアバンパーを丸い造形にすることが求められた。そのため,ルーフ上部やリアバンパーコーナーにおいて風流れが巻き込み,後流渦を強めてしまう。以上より,CX60のデザインと空力性能を両立するための課題は,車両周りの局所で発生する渦による運動エネルギー損失を低減しつつ,後流渦の運動エネルギー損失を低減することである。そのために後流渦の新たな制御技術を確立し,クラストップレベルの性能となる従来同型比12%のCd値改善を実現することを目標とした。 本稿では,この課題解決に向けて取り組んだ後流渦の運動エネルギー損失の低減コンセプト(3章),制御コンセプト実現のための風流れ制御技術(4章),CX60の空力開発への適用(5章)について報告する。3.後流渦の運動エネルギー損失の低減コンセ3.1 CFDの解析条件 本研究のComputational Fluid Dynamics(以下CFD)は,汎用流体解析ソフトであるSiemens社のSTARCCM+®を用い,乱流モデルにはDetached Eddy Simulation(DES)2. 新世代SUVの空力開発課題(a) MODEL A Cd=0.037  (b) MODEL B Cd=0.108Fig. 3 Kinetic Energy of Flow around MODEL A and B Fig. 4にモデル表面近傍の流線を示す。両モデルとも,後端まで表面に沿って流れる。MODEL Bでは側面から上面に巻き込む風が発生することで(Fig. 4(b)①),後端部で風向に差が生じ(Fig. 4(b)②),吹き下ろす現象が確認された(Fig. 4(b)③)。 MODEL Bにおいてモデル側面から上面に風が巻き込んだ要因を分析するため,Fig. 5にモデル中心のY断面における静圧分布を示す。MODEL Aでは,後端部に生じた負圧が小さい。一方でMODEL Bでは後端部の上方に負圧が発生した。Fig. 4(b)①の流線は,この負圧に向かって巻き込んだと考えられる。Fig. 2 Tear Drop Modelを適用し,非定常解析を行った。3.2 運動エネルギー損失の発生メカニズム解明 後流渦によって生じる運動エネルギー損失の大小は,車両後端部を流れる風の向きによって決まると考えた。この風向は,後端部の形状だけではなく,後端部に至るまでの風流れにも依存して決まると仮説を立てた。この仮説を検証する。 検証に用いたモデルをFig. 2に示す。車両前方から流れてくる風と後流渦の関係,及び後流渦が空気抵抗に与える影響を確認するため,車両固有の要素を排除した涙滴形状MODEL Aと,自動車の床下は地面に平行であることを模擬して中心軸を下方に8度傾けたMODEL Bの2つを用いた。プト

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