マツダ技報2023
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―2―た。お客様への提供価値を第一に考え抜き,それを実現するための保有技術,新技術を組み合わせ,融合させて実現させる,いわゆるソフトウェアファーストの考え方である。これを実行に移すには単一技術の追求をしているだけではバランスを失う。実現したい価値を全てのエンジニアが把握し,同じ方向を向き,互いの技術を理解し合いながら連携させていく必要があり,これまで以上に強固な連携作業は必須,既存のプロセスやツール・イネーブラーも同時に再構築していかなければならない,非常に大がかりな転換である。同時に,自動車業界に携わる責務として,社会課題であるカーボンニュートラルの実現をしていかなければならない。これを達成しなければ,マツダの存在意義は薄れ,パーパスの実現にも至らないことを覚悟しながら進めている。しかしながら,この変革は過去を否定するものでは決してない。マツダでは2007年に技術開発の長期ビジョン「サステイナブル�Zoom-Zoom�宣言」を策定し,その当時からライフ・サイクル・アセスメントの視点でCO2削減が必要であり,その実現に向けた施策とし,マルチソリューションを掲げ,ぶれることなく具現化を進めてきた。その中核として,ビルディングブロック構想により技術革新とプロセス革新を両輪として完成させながら一つ一つ資産として積み上げ,向上させていくアプローチをとってきた。その過程で,2000年初頭より進めていた社内デジタル革新としてのMazda Digital Innovationでは,モデルベース開発,モデルベースリサーチが可能な人材育成とIT設備の導入および進化を進めてきている。今後もこれら資産をベースに,積み上げていく技術の錬成による価値創造および,それを可能とするデジタルトランスフォーメーションを進めていくことに変わりはない。現在は新たなステージとして,複雑化・高度化する技術に対応すべく,モデルベース開発やモデルベースリサーチの進化と共に社内IT教育を進め,デジタルリテラシーの向上と実装を図っている段階である。 ここで,忘れてはならないことがある。技術進化・イネーブラーの進化があっても,それを使うのは人である。確かに生成AIに代表されるように,様々なことが便利になってきている。1週間かかっていた課題解決が,瞬時にできることもあるだろう。今後も進化を続け,エンジニアのアプローチも変わってくるであろうことは容易に想像がつく。しかしながら,このAIにどのようなデータを入れどのような結果を導くかは,人がその特性を理解し,熟考し,使い方を吟味する必要がある。つまり,これまで以上の知識,思考,エンジニアセンスが欠かせない。そういった意味では,いつの時代になっても技術は人が生み出すクリエイティビティー(価値創造)なのである。CASE時代と言われて久しいが,こう考えるとConnected,Autonomous,Shared,Electric全てが手段であり,その先にある生活者の得る体験にどのような価値があるのか?これらを使い我々は社会にどんな貢献が出来るのか,そしてその結果として未来に我々が何を残すのか,100年に一度の大変革期に自動車業界に身を置く一人として日々考えている。そして,いきいきとした体験として一人でも多くの方に喜んで頂けたらと切に願う。 本号では,マツダ最新の商品となる北米向けCX90ならびにロータリーエンジンを発電機としたMX30 Rotary-EVを特集する。どちらの商品も,マツダがこれまでのビルディングブロック戦略および最新のモデルベース開発・モデルベースリサーチを駆使した技術を織り込んでいる。少しでも参考になれば幸いである。 最後に,寄稿頂いた全ての方々に感謝すると共に,本技報をご覧いただいている,同時代を生き抜く全てのエンジニアの方々にエールを送りたい。

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