マツダ技報2023
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―99―Fig. 3 Procedure of Virtual Sensor Development2.2 学習データ収集 機械学習において重要である学習データの収集には,車載ECU内の計測・計算値を取得することが可能な開発車両を用いた。開発車両でマツダ本社内やテストコースを実際に走行し,市街地走行や高速走行を模擬した計23000秒分の学習データを収集した。またインマニ温度に関しては市販されている車両に搭載されるサーミスタ型センサーではなく,計測精度や応答性の観点からφ1mmのシース型熱電対を採用し,こちらも学習データとして活用した。2.3 入力パラメーター選定 NNの入力パラメーターは機械学習の予測精度に大きく影響する。そこでインマニ温度に関係するパラメーターを機能展開図から選択する工学的経験からの手法,インマニ温度を物理式で導く際のパラメーターを選択する数値流体力学からの手法,共分散等のデータ分析からインマニ温度に相関のあるパラメーターを選択する統計的な手法の三手法を組み合わせることで最も高い予測精度となる入力パラメーターを選定した。予測対象を現在のインマニ温度の熱電対値として,入力パラメーターはセンサー値とECU内の計算値からエンジン回転数,インマニ圧力,吸気流量,インタークーラー後ガス温度,タービン前排気温度,インマニ内酸素濃度,高圧EGR流量,低圧EGR流量を設定した。TC回転数に関しても同様の手法により入力パラメーターの選定を実施した。2.4 検証環境とNNモデル 机上検証はPythonにより実施しており,NNの作成と学習には代表的な機械学習のフレームワークとNNライブラリであるTensorflowとKerasを使用した。また,開発車両の走行中に0.1秒間隔でECU適合ツールと車両間の通信をしてリアルタイム予測を行える環境もSimulink上で構築した。 インマニ温度やTC回転数を求めるためには過去からFig. 1 MBD Process in Mazda2. NNによるセンサー値予測2.1 研究概要 本研究では1.8LのディーゼルエンジンであるSKYACTIVD 1.8を題材とした。SKYACTIVD 1.8のエンジンシステム図をFig. 2に示す。SKYACTIVD 1.8の吸排気システムには低圧,高圧の2系統で構成される排気ガス再循環装置(以下,EGR)や水冷式インタークーラー,シングル可変ジオメトリー(VG)ターボチャージャーなどが採用されており,インマニ温度やTC回転数はこれらの部品間で発生するエネルギー収支の結果として決定される。Fig. 2 System Diagram of SKYACTIVD 1.8を想定しているが,エンジンには物理量を計測するために多数のセンサーが搭載されており,コスト高,レイアウトへの制約,重量増加等の幾つかの課題を抱えている。計測された物理量はエンジン制御に反映されるため正確な数値の把握が重要であるが,仮に他の計測された物理量から対象の物理量を予測することでセンサーを削減できれば前述の課題の解決策となり得る。またクルマはさまざまな環境条件下で使用されるため,NNに対する入力パラメーターが事前の学習領域外に存在する状況も考慮すべきである。そこで本稿では,ディーゼルエンジンに搭載されているインテークマニフォールド(以下,インマニ)の温度とターボチャージャー回転数(以下,TC回転数)を題材として,NNによる物理量の予測手法と,入力パラメーターが学習領域外に存在する場合の対応を紹介する。 次にNNによる物理量予測の工程をFig. 3に示す。学習データの収集,入力パラメーターの選定,NNの作成や学習を実施し,NNの精度や寄与度を分析するプロセスを繰り返すことで精度の高いNNを構築し,最後に開発車両を用いたテストを行うためSimulinkモデルに統合した。以降に各工程の詳細について述べる。

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