―112―求められると考える。そこで,マツダではSW更新によるクルマの価値を向上するビジネスの実現に向けた活動を進めている。その第一歩として,2017年よりSW更新に関連した管理基盤構築活動を開始し,スモール商品群の開発に合わせて推進した。この基盤を用いて,「おクルマを最新スペックにアップグレードすることで,いつものドライブをもっとラクに,もっと楽しく」という願いを込め,2021年9月にクルマを最新のスペックにアップグレードする「MAZDA SPIRIT UPGRADE D1.1」のサービスを開始し,お客様にこれまでにない保有体験をお届けしている。 一方,SW更新に関する法規整備もGlobalで進んでおり,UNR156が制定された。そのため,2022年7月以降「MAZDA SPIRIT UPGRADE D1.1」のような,SW更新を今後も実現していく上で,UNR156の対応をしなければならない。 UNR156に対応する上で,特に重要になるのが,クルマのライフサイクル全体(企画→開発→生産→市場→廃棄まで)を視野に入れたSWのトレーサビリティ管理である。マツダでは,スモール商品群までに構築した基盤を拡張することで,ラージ商品群にてUNR156への対応を完了した。 本稿では,マツダのこれまでのSW管理の取り組みと,UNR156対応にあたって拡張した仕組みについて紹介する。2. スモール商品群までのマツダの取り組み2.1 SWの構成管理 SWを全社で管理するためのプロセスやITインフラを構築するに当たり,全く新しい管理基盤構築するのではなく,SWも車載部品の一つとして既存の枠組みの中で扱うこととした。 こうすることで,既存のプロセスとの親和性を確保し,開発,生産,市場の関係者が運用しやすくすることを目指した。 マツダでは以前から,MIDAS (Mazda Integrated Database and Application System) と呼ばれる,車両製造のための部品管理データベースを運用している。 MIDASでは車両の種類を特定するための仕向けや装備等情報(以降「車種情報」)に対し,車両1台分の部品を機能ごとのグループに大別し,その下に構成部品をツリー状に設定することで部品構成を表現している。このMIDASにてSWを車載部品の一部として管理することで,SWの構成管理を行っている。 以下では,MIDASを活用したSWの構成管理を行うための取り組みを説明する。(1)管理粒度の定義 SWの管理単位をMIDASでは,各SWのビジネスや設計上の制約を考慮して,サプライヤー様やベンダー様から提供(納品)頂く単位や,機能単位に分別した単位で設定できるようにしている。例えば,更新対象のハードウェア(以降HW)ごとに管理することや,複数のSWを機能単位でまとめて,管理することも可能としている。(2)部品番号(識別子)の設定 SWを管理するに当たり,従来から部品の管理に用いていた既存の部品番号をSW管理の識別子として適用している。これは,既存の部品番号の採番方法でSWを一意に特定することが十分可能であると考えたためである。 マツダの部品番号は,10桁の英数字を4桁-5桁-1桁に分割し,それぞれに以下のような意味のフォーマットとしている。●部品番号フォーマット(例):X001-Y0001-A-X001(4桁):種類番号,バリエーション (例)車種,仕向け,装備による違い-Y0001(5桁):機能番号,部品がもつ機能 (例) エンジン制御,ADAS制御,等制御する車両内で-A(1桁):改訂履歴番号,バージョン(3)互換性情報管理 市場にてSWを更新する際,関連するSWやHWに対する互換性が保証できるSWのみを確実に更新する必要がある。加えて,SWの種類や改訂履歴に応じて適切なSWを選択し更新を行う仕組みが必要不可欠である。これらの互換性や種類,改訂履歴を考慮し,SWの更新可否を表現した情報をリプロチェーン情報と定義し運用している。 リプロチェーン情報には,更新前のHWとSWの保証できる組み合わせ情報と,それらに対して更新可能なSWの情報が紐づけて管理されている。SW更新前に車両に搭載されているSW/HW Verを取得し,このリプロチェーン情報と照合することで適切なSWを特定し,更新内容を保証している。またこの,リプロチェーン情報を市場のサービスツールへ確実に配布するシステムとして,RCMS (Repro Chain Management Systems) をスモール商品群から導入した。2.2 SW流通プロセスの確立 次にスモール商品群までの取り組みとして,SW本体の管理基盤を説明する。(1)SW管理システムの構築 前世代商品群から工場におけるSW書込みに関して,更新対象のSWを管理するため,MIRS (MIDAS Intangible products Release System) と呼ばれるシステムを構築していた。スモール商品群では,このMIRSによる管理対象を一気に全車載ECUに拡大し一元管理を開始した。 更に,市場サービスツールや工場の設備とMIRSを連携させることで,SWに関して人手を介さずに車両に書き込むことを可能としている。の機能
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