マツダ技報2023
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―117―Fig. 1 Mazda’s Roadmap for Reducing CO2 EmissionsFig. 2 Air Conditioning Process3.1 効率悪化の要因と課題 空調設備をはじめ生産設備においても,水を使用した熱交換器は多く存在している。その中で,主に冷房用(冷却)に使用する冷水を製造する冷凍機・冷却塔での効率低下の大きな要因は,熱交換部分に付着するスケールやスライムであり,このうち空調設備の水系設備の汚れはスライムが支配的である。スライムとは,バクテリアや真菌が形成する粘液状のもので,触るとヌルヌルした感触がある。スライム層による効率低下の主な要因は,水と熱交換器の間の熱伝導を阻害すること,また流路内の流れを減衰させ通水量が減少することである。したがって,定期的なメンテナンスや洗浄,水質の管理など適切な環境つくりで,まずはスライムを抑制することが重要である。3.2 効率改善の課題と取り組み 冷凍機・冷却塔の能力低下について,これまでもスライムを除去することで効果を確認してきたが,従来の代表的な洗浄方法には以下の課題があった。①高圧洗浄:高圧洗浄機を使って充填剤表面や水槽内のスライム(泥・藻)を洗浄する。この方法は比較的簡単で安価であるが,充填剤内部に詰まった汚れまで落とすことが困難である。②薬品洗浄:薬品を使って充填剤や水槽内の汚れを落とす。この方法は充填剤内部まで効果的に洗浄できるが,冷凍機・冷却塔,それらを結ぶ配管まで含めた一括での洗浄が必要であり,大量の薬品投入や,洗浄後の廃液処理にバキューム車による対応が必要でコストが掛かり,大きな課題があった(Fig. 3)。Fig. 3 General Cooling Tower Cleaning2. 空調設備の目指す姿と課題3. 効率改善技術できれば,水平展開することでより多くの効果が見込まれるとともに,熱のコントロール技術として生産系設備に応用することも考えられる。 本稿では,マツダがこれまで取り組んできた空調設備の省エネ技術について紹介する。 マツダが考える空調設備の目指す姿は,「空調品質」と「環境性能」の両立であり,空調品質は「一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮でき,クルマづくりに専念できる快適な空間であること」,環境性能としては「貴重な資源・エネルギーを価値あるものとして使い切ること」と考えている。これを実現するコンセプトとして,大切なエネルギーを「必要な時に,必要な場所へ,必要な量だけ」使用することと設定した。 空調は,大きく4つのプロセスで構成されている(Fig. 2)。①熱製造:冷凍機や熱交換器などの設備で夏は冷水を冬は温水を製造する。②液体搬送:冷温水にポンプで圧力を与え,各フロアまで搬送する。③熱交換:冷温水を冷風・温風に熱交換する。④気体搬送:ダクトを通って送風する。この中の,①熱製造・③熱交換プロセスで,エネルギー消費の85%を占めることから,冷凍機・冷却塔に,空調機など熱交換を行う設備の「効率」を維持していくことが重要である。 一方で,効率を維持するためのメンテナンスは,労力やコストが掛かることから不十分な個所もある。また,コロナ禍の在宅勤務などでオフィスでの働き方も大きく変わり,事務所の使われ方の変更による熱バランスの変化に加え,猛暑や気候変動により,「快適性」性能の維持が難しく,空調設備の「運用」改善も重要な課題となっている。また,これら「効率」「運用」改善には多くの因子が絡むため効果の確認が難しくなっており,自立・定着化には「見える化」にも大きな課題があった。 上記課題に対し,マツダは①経年劣化により低下した既存設備の性能を回復する「効率改善」,②こまめなコントロールで省エネと快適性を両立する「運用改善」,③取り組みのPDCAを加速させるための「効果の見える化」について取り組んだ。

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