マツダ技報2023
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(4)効率改善技術のまとめ 今回開発した冷却塔局所洗浄技術は,熱交換設備の効率を高めるために重要なメンテナンス方法である。この―118―Fig. 4 Localized Cleaning of Cooling TowersFig .5 Monthly Electric Power Generation Increase E■ect by Cooling Tower Cleaning 更に,近年35℃を超える猛暑日の増加(地球沸騰化の時代に突入)による影響で冷却水温度が下がらず冷却効率が低下し,設備が停止するなど冷却水温度の上昇が新たな課題として加わった。冷凍機・冷却塔の経年汚れに,外的要因も加わったことで冷凍機の熱交換器内部のブラシ洗浄のみでは能力維持が難しく,熱交換器内部を流れる「冷却水」自体の温度を下げる対策が必要であった。冷却塔充填剤内部の汚れを落とし能力を回復させるためには,大量の薬品を使用せず,少量の薬品で洗浄を可能にすることが重要な課題であり,冷却塔のみで薬品を循環させる方法に着目した。(1)新しい洗浄方式の基本原理や技術的な詳細 今回,洗浄効果の高い薬品洗浄を採用し,洗浄範囲を限定させることで,洗浄効果と作業コスト低減が両立できる方式を検討し,単体で洗浄薬品を循環させる「冷却塔局所洗浄」技術を開発した。この局所洗浄技術については,冷却塔の下部水槽を循環槽として使用して,水中ポンプを用いて散水槽まで送水する。洗浄薬品は,散水槽の底に開けられた無数の小さな穴から充填材に散水し,汚れを落としながら下部水槽へと戻ることで冷却塔内のみで循環を可能にした(Fig. 4)。 角形冷却塔については,最大規模の散水槽を想定して水中ポンプを選定した。能力は10.8m3/hあり,上部水槽からの散水は10.0m3/hのため,1ユニットの場合,水中ポンプ2台で満遍なく散水可能である。また,冷却塔の大きさ(ユニットの増加)については,水中ポンプを増やすことで臨機応変に対応できる。 スライム除去に使用する薬品については,過酸化水素30%洗浄液を採用した。過酸化水素は強力な酸化剤であり,有機物や微生物を分解する作用がある。スライム(バクテリアや真菌が生成する粘性物質)や,汚れが付着した設備や器具を洗浄する際に,スライムを分解し除去する効果的な洗浄剤として利用できる。更に,安全性が高く,分解された後は水と酸素になるため,多くの産業分野で広く使われている。洗浄後の廃液は過酸化水素処理剤(酵素)で無害化することができ,排出する前には試験紙で過酸化水素残存濃度「0」を自ら確認することで,安全かつ容易に排水処理が可能となった。 この新しい局所洗浄技術は,従来の洗浄方法では解決できなかった課題を解決し,冷却塔充填剤内部の汚れを落とし能力を回復させることができる技術である。(2)冷却塔局所洗浄方式の効果 マツダでは,100台以上の冷却塔に,この技術を導入しており,2022年は冷却塔22台,冷凍機・モジュールチラー・空調機など80台に局所洗浄技術の水平展開を実施し,蒸気・電力などエネルギー消費量を算出した結果,原油換算で前年比1904kL/年(CO2削減:6047t)改善した。2023年は30台の冷却塔洗浄に,その他熱交換設備の洗浄で早期刈り取りを計画している。 一方「冷却塔局所洗浄」では,熱交換に関係ない中間の配管は洗浄対象から除外でき,必要な薬品量や排水量を90%削減したことでコストも抑え,廃液処理も安全に行えるようになった。(3)冷却塔局所洗浄方式の適用展開 今回開発した冷却塔の局所洗浄を,自社保有の火力発電所の大型冷却塔に適用した。今まで空調用の冷却塔では保有水量3m3程度の冷却塔で局所洗浄技術を磨いてきた。その施工方法を使って西浦工場にある自家発電(25000kW)の冷却塔(保有水量395m3)へ水平展開を行った。規模は大きいが,流入槽を循環槽として使用することで,保有水量を22m3まで下げることができ,薬品2840kg(従来は39500kg)での冷却塔局所洗浄作業を安全に施工できた。 効果については,机上計算上ではあるが冷却水温度を2℃低下させることで,タービン復水器の真空度が-94.5kpaから,設計値である-96.5kPaに近づき,冷却効率が上がることで発電量が年間40320kW増加となる。今後は,実機での確認を行い評価する(Fig. 5)。

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