マツダ技報2023
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(2)中間期における外気エネルギーの最大活用(加湿冷房) 春秋の期間(中間期)は,20℃以下の外気を室内に送風することで,室内温度は24℃付近になる場合が多い。しかし,外気が20℃を超えると内部発熱の影響で暑くなる傾向にあり,冷凍機を運転している。短時間の運転時間ではあるがエネルギー増加の原因となっていたため,冷凍機の運転を最小限とする「気化熱」を利用した温・―119―4.1 空調運用の問題点と課題 空調運用は,室内の人やOA機器などの熱負荷に対し,冷温風を適正に送風することで室内全体の温度を目標値に制御することである。しかし,近年の気候変動による外気温度の変化や,働き方改革による室内の熱負荷分布の変化などによって,室内環境にもばらつきが生じて,都度調整しないと空調品質の維持が難しくなっている。その状況の中,マツダは創意と工夫で運用の改善を進めてきたが,現在の設備優先から,人優先のきめ細かい制御に変更することや,中間期自然エネルギーの有効活用が重要な課題となる。4.2 空調シミュレーションによるばらつき改善 空調運用においては,室内の温度・湿度や風量などの制御が重要となる。しかし,現場では室内レイアウトの問題や人員,窓からの入熱が影響して温度や湿度にばらつきが生じている。このような状況では,快適な環境を維持するために多くのエネルギーが必要となり,コスト増加の問題を引き起こすこともある。しかし,現場で温度を確認しながら調整することは手間が掛かり現実的ではない。そこで,机上で室内の温度と気流環境を再現することができる空調シミュレーション解析(以下空調SIM)により,実際の状況に合わせた最適な空調制御方法を検討することが可能であり,室内温度や湿度など,ばらつきを特定することもできる。例えば,各部屋の断熱性能の違いや,冷風・温風の送り方による風量の違いなどの情報を基に,空調設備の改善策を提案することが可能である。実際に空調SIMを活用してばらつき改善を行い,コスト削減にもつながった事例を紹介する。4.3 熱源エネルギー最小化に向けた最適制御(1)冷温水温度の最適化 一般的なビルでは,熱源設備で製造された冷温水を冷房時8℃,暖房時50℃一定で送水しているため,季節の変わり目にはエネルギーロスが生じている。猛暑日は,昼の外気も上昇するため,冷房時の水温を上げるのが難しいが,冬は室内負荷や外気温度も始業と同時に上昇するため,比較的温度を制御し易く,暖房時の水温を1℃下げることで,約3~10%の電力削減効果がある。温水温度を1日の時間帯で必要な温度に管理できれば,更に効果が上がる。ビル空調の暖房運転で,一番熱負荷が集中するのは朝の始業時で,その後は室内温度が落ち着き始め熱源設備の熱負荷も安定する(Fig. 6)。Fig. 6 Heating Heat Amount Over TimeFig. 7 Set Temperature and Temperature Change4. 運用改善技術技術は,冷却塔や冷凍機など設備の熱交換器のみに洗浄薬品を循環させて汚れを除去するもので,定期的に行うことで省エネ効果を持続させることができる。また,この洗浄技術は冷水・冷却水など,水を循環させ熱交換器で冷却する設備について,設備構造が同様であり展開可能である。具体的には冷凍機・モジュールチラーなど「熱源製造設備」や,空調機・ファンコイルなど「空調設備」,コンプレッサーに金型温調器・プレート熱交換器など「生産設備」にも展開可能である。また,サプライヤーにもこの技術の展開を進めており,設備更新時には熱交換器入口・出口配管それぞれに洗浄用の取り出し口設置を標準化している。 このように,「局所洗浄技術」は,容易に熱交換設備のメンテナンスを行うことができる技術である。省エネは一度ではなく,継続的かつ計画的に行うことが重要であり,スピード感をもって展開していきたいと考えている。 次に,空調SIMを活用し,暖房時の温水温度を実機で検証した。改善前は黒線で示すように35℃一定に設定していたが,10時前には室内温度が目標温度帯を越えていることが分かる。これに対し,赤線で示すように,時間帯でのきめ細かい制御を行うことで,室内温度を目標温度帯に保つことができ,この問題を解消した。その結果,エネルギー使用量を前年比で電力10%,蒸気22%削減した(Fig. 7)。

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