マツダ技報2023
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(2)材料強度比板厚比の大きい3枚重ねの例 Table 4に示す板組において,Fig. 28に示すような溶接条件を適用した。現行の溶接条件と比較して通電初期を低加圧力とすることで低電流化することができ,より薄肉の発熱を促すことができたことで,2段目の電流値を下げることができ,従来の溶接条件から30%の消費エネルギーの低減を実現した。―128―Fig. 26 New Welding SequenceTable 3 Sheet CombinationStrengthCoated/Uncoated590MPaUncoated590MPaCoatedFig. 27 Welding ConditionTable 4 Sheet CombinationCoated/UncoatedStrength590MPaCoated980MPaCoated980MPaCoatedFig. 28 Welding ConditionMaterial 1Material 2Material 1Material 2Material 3Thickness0.9mm0.9mmThickness0.65mm1.0mm1.8mm7. 量産工程への適用 通電途中に同期を図る場合,どちらか片方で両者を制御すればよいが,それでは設備自体を交換する必要があり,また工場全体の制御システムの改造も必要となるため,コスト,工数ともに大きくなってしまう。そこでこの役割を変えずに同期制御を実現するシステムの開発をすることとした。6.2 高速通信による同期制御システムの実現 加圧力と通電を同期させるため,通電途中においても,加圧力変更時にロボットと溶接タイマーで信号をやり取りさせることで同期を担保するようにした。まず品質の安定のため加圧力の切り替えは通電間の時間(クールタイム)内にのみ実施することを前提とした。加圧力を変更するとき,溶接タイマーからロボットへ信号“Force Switching”を送る。この信号をトリガーとしてロボットは加圧力を切り替え始める。そして切り替え完了した後ロボットから溶接タイマーへ信号“Force complete”を送る。溶接タイマーは設定されたクールタイム経過時に,この信号がONしていることを確認して次の通電を実行するようにした(Fig. 26)。 この信号のやり取りはクールタイムの間で行うため,通信時間が長期化することはクールタイムを延ばすことにつながる。それは加工時間の長時間化,エネルギーのロスにつながるため,高速かつ安定した信号品質が必要である。そこで通電間に使う通信として,デジタル入出力(DIO)通信を採用した。DIO通信は汎用的に使われている通信の一つであり,1つの線に1つの信号を割り当て,電圧によってON/OFFを検出する通信である。そのためDIO通信により高速かつ安定した通信を実現できる上,既存のロボット,溶接タイマーに実装することが容易であることから,コストを抑えることもできる。 これらにより多段加圧スポット溶接システムを,既存ロボット,溶接タイマーを現地改造することで実装できるシステムとした。 今回開発した多段加圧スポット溶接システムを,MX30のアンダーボディー領域に適用した。アンダーボディーから適用した理由は,厚肉,高張力鋼板を含む板組が多くあり,消費エネルギーが高いためである。この領域で,従来相当のナゲット径を確保しながら消費エネルギーの低減を実現した。7.1 工場量産における効果 導入効果の事例として2板組の効果を紹介する。(1)高張力鋼板の2枚重ねの例 Table 3に示す板組において,Fig. 27に示すような溶接条件を適用した。通電初期を低加圧力とすることで通電初期の電流値を落としても現行同等のナゲット径が確保できた。これにより従来の溶接条件から25%の消費エネルギーの低減を実現した。

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